農地生成試験報告 ~循環構造外部における独立土壌形成実験~
エリザベートと二人、レジャーシートの上でのんびりしていると、ミックたちが戻ってきた。
「この短時間でこれだけの空間を生み出すのもすごいですが――
お二人がこうして寛いでいる姿を見るのは、もっと貴重ですね」
ミックが笑いながらそう言った。
「まぁ、確かにレアな光景だな。
これからはもう少し、こういう時間を増やしたいものだ」
「いつでもお供させていただきます」
エリザベートが少し照れたように微笑む。
「そうだ。土魔法の担当はジョージだったな?
農業に使えそうな魔法はあるか?」
「はい、私が土魔法担当です。とりあえず開墾を始めましょうか?
この広さなら三日もあれば終わります」
「わかった。……ワームを千匹ほど放す予定だ。開墾が終わった区画から撒いていく感じで」
「ワーム、ですか?」
「畑にワームは基本じゃないのか?
前世の記憶だと、ワームが微生物を分解して土の栄養を作ってくれる――ってのが常識だったはずだ」
ジョージが隣の囚人に尋ねる。
「ゴードン、常識なのか?」
「はい。親から“ワームは無闇に殺すな”と言われていました」
「だよな。
――ただ、農場はダンジョン循環が使えない。
土の栄養=有機物だから、通常状態にすると作物が育たない土壌になる。
まあ、窒素・リン酸・カリウムを含む化学肥料を作れば何とかなるだろう。
初年度からうまくいくとは思っていないし、まずは試験だ。
……ああ、ミック。水撒きは毎日頼む」
「すみません。私とジョージがこちらで魔力を使うと、通常業務に支障が出るのですが……」
「それなら問題ない。
囚人が採掘した鉱石は一度俺がすべて回収して魔素に変換する。
その後、ジョージが精製したものと同等の素材を俺が生成する。
――つまり、お前ら二人の労力を農場に回しても支障はない」
「……すでに計算済みでしたか。
看守としては複雑ですが、ダンジョンの住人としては喜んでやらせていただきます」
「ミック、お前さ。前から思ってたけど、なんでそんなにノリノリなんだ? やたら協力的だよな」
「単純に、普通に看守してるより楽しいからですよ。
看守の仕事に誇りはありますが、二ヶ月間ずっと囚人たちを睨みつけてるだけだと思って来たら――
初日から“ダンジョンの洗礼”ですからね。
粗を探そうにも、どこにも粗がない。
だったら協力して楽しんだ方がいいじゃないですか。
……ねぇ、ジョージ?」
ジョージは極悪な笑顔を浮かべながら、心にもない調子で言った。
「私は看守の仕事がしたいです!」
全員で「めっちゃ嘘じゃん!」とツッコミを入れる。
笑いが落ち着いたところで、俺は言った。
「よし、二人の気持ちはよく分かった。――こき使うからよろしくな」
そして、ミスリル製のクワ五本と人力畝切り二本を生成する。
押して進むだけで地面が均され、左右に土が分かれて自然と畝が立つ構造だ。
刃先から淡い銀青の光が走り、陽光を受けた金属面が波のように輝く。
その人力畝切りの上にエリザベートを乗せ、実際に押して畝を作ってみせると、囚人たちから「おおーっ!」と歓声が上がった。
「こういう道具、ないのか?」
「見たことありません。とても便利ですね!」
「よし、じゃあ開墾が終わるまでに、何を植えるか候補を挙げておけ。
根菜メインの方がお前ら的に好みだろう?
葉っぱ食べてるところ見たことないしな。
芋、豆、にんじん、ネギ……その辺か」
「了解しました!」
「じゃあ、後は任せた」
【農業プロジェクト】試験区画運用開始
【担当班】ジョージ(土魔法)/ミック(水管理)/囚人班B6人
【試験内容】有機土壌生成・根菜栽培試行
【補助生成】ミスリル製農具7点(クワ×5/人力畝切り×2)
【生体導入】ワーム1000体投入
【備考】魔素循環外作物の育成テスト開始。初年度収穫率:未計測
農業編の幕開けです。
今回は“魔素循環外”という未知の領域に挑戦する実験となりました。
ミスリル製の農具は、軽くて腐食せず、魔力伝導にも優れているため、
まさにこの世界における最高素材といえます。
淡い銀青の輝きが、光と生命を象徴するようにも見えました。
なお、エリザベートを畝切りに乗せて実演したのは完全に趣味です。
周囲は真面目に見守っていましたが、俺だけは多分、少し楽しんでいました。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




