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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第二章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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農場生成計画報告 ~合理性と温もりの共存実験~

輸送隊が出発した。


「さて、ダンジョンの改築をしようか」


とはいえ、二階層にカプセルを五十個増設するだけだ。

看守用の部屋はまだ必要ない。

ミックとジョージは滞在日数が少ないから、一階層で十分だろう。


二階層の建築には、一階層の倍の魔素が必要になる。

だが、得られる魔素も倍近くになるようだ。悪くない投資だな。


さて、輸送隊が商人を説得して戻るまで、少し時間が空いた。

……近くの農村の支配を先に進めるか?


「ミック、近くの農村の人口ってどのくらいだ?」


「だいたい二十~三十世帯ほどなので、百人前後かと」


「うん、面倒だ。後回しにしよう」


商人が実際に出入りし、村人たちが興味を持ち始めてから支配すればいい。

効率的にいこう。


「エリザベート、ひとつ聞くが――ダンジョン内で作物って育つのか? 俺の知識じゃ分からん」


「考えたこともありませんが、カプセルや食堂が存在するくらいですし……

畑が存在できない理由は、特に無いと思います」


「ミック、ジョージ。お前らはどう見る?」


「ダンジョンで成る果実が薬になるとかで、オークションで高値が付くと聞きました。

可能だと思います」


「分かった………囚人の中に農民はいるか?」


「農民はいませんが、農村育ちは何人かいたはずです。確認してきます」


「そうか。連れて来られるか?」


「了解」


「じゃあ、その間に俺はゴーレムを生成するか」


俺が生成すると、いわゆる“ネコ”と呼ばれる一輪車が五台、目の前に現れた。


「これが……ゴーレムですか?」

エリザベートが不思議そうに首を傾げる。


「この車輪の部分がゴーレム化してる。

動力補助をしてくれる仕組みだ。

自走まではしない――坑道はでこぼこしてるから、勝手に走らせたらすぐ転ぶ」


「なるほど、そういうことですか」

エリザベートが感心したように頷く。


「つまり、“少しの力で押せば動く”って感じだな。

まあ、形状は俺が生成しただけだ」


続けてツルハシ、スコップ、シャベルをそれぞれ五本ずつ生成した。

「どれもミスリル製だ。冒険者が武器にしても通用するレベルだぞ」


「また……斜め上なものを生成しましたね」



最後にミミックを二匹生成した。


ツルハシ等で掘削し、ネコで運び、ミミックに収納。

坑道外へ搬出したら、看守が洗浄・精製して、またミミックに収納。

――これで作業効率はぐっと上がるだろう。


そんなことをしているうちに、ミックとジョージが六人の囚人を連れて戻ってきた。


農業の話をする前に、まず新しい“便利グッズ”の使い方を説明した。

すると囚人の一人が、少し不満げに口を開いた。


「そんな便利なものがあるなら、もっと早く出してくれても良かったんじゃないですか?」


「別に出すのは構わんが、効率が上がってどうするんだ?」


「えっ……?」


その場にいた九人全員――ミックもジョージもエリザベートも――ぽかんとした。


「効率上がって鉱石の採掘量が増えたところで、

増えるのは“ノルマ”か“暇な時間”だぞ?」


「看守の立場で考えてみろ。囚人全員が午前中で作業を終えて、

風呂でのんびりしてたら……とりあえず『働け』って言うしかないだろ」


ミックを見ると、ものすごく納得した顔で頷いていた。


「今回は別だ。今後、囚人を何人か別の作業に回すため、効率化が必要になった。

だからこのタイミングで出したんだ」


「お前ら囚人の労働は“刑罰”の一部だ。

本来もっと過酷で当然なんだよ。

ただ、俺の目的とお前らの存在がうまく噛み合ってるから、今の待遇があるだけだ」


「なるほど……一々納得ですね」

ミックが感心したように言う。


発言した囚人も、反省というより感心している様子だった。


「折角来てもらって悪いが、まずはこれらの道具を坑道に運んで試してみてくれ。

実際に動かしてみないと分からん部分も多い。

二時間後に再集合だ」


「了解です!」


全員が胸に拳を当てて敬礼する。

……あれ、ここは軍隊か?


「その間に、俺は農場を“形”にしておく。

戻ってきた頃には、もう出来てるはずだ」


ミックが目を丸くしていたが、すぐに笑って肩をすくめた。

「……相変わらず、やることのスケールが違うな」


「褒め言葉として受け取っておく」


囚人たちが坑道へ向かっていくのを見送りながら、

俺はゆっくりとダンジョンの深部に視線を向けた。


さて、農場作りだ。

まずは一キロ四方。

ダンジョンタイプは“平原”でいいか。

ダメなら作り直せばいい。

擬似太陽光も設置する。


費用三十万魔素。……高い。

だが必要経費だ。無駄遣いじゃない。


(ミスリル道具は……ちょっとやりすぎたか? まあ、気にしない気にしない)


「というわけで――農場、生成ッ!」


高額の魔素を使うから、気合いを込めて掛け声を上げた。

……別に何も変わらないけど、気持ちの問題だ。


「ほへぇ……」


隣のエリザベートが、口を半開きにして固まっていた。

ちなみにこの擬似太陽光はヴァンパイアでも問題ない。

事前に確認済みだ。


初めて浴びる“太陽”の光。

色々と感じるところがあるのだろう。


「広いですね」


……そっちかい!


次の行動は決まっている。


「出でよ、レジャーシート」


レジャーシートを引いて、どかっと座り込む。


「エリザベートも来い。せっかくだから日向ぼっこでもしよう」


ダンジョンマスターになって初めて、日の光の下でのんびりした。

エリザベートも、少し挙動不審ながら楽しそうだ。


――今日も、いい一日だ。


【ダンジョン経営報告】


【改築】二階層:宿泊カプセル+50(建築魔素×2)

【開発】農場区画(1km²・平原タイプ・擬似太陽光)

【生成】補助ゴーレム(ネコ型)×5/ミミック×2/作業道具(ミスリル製)

【新規作業】坑道効率テスト(所要2h)

【備考】労働効率向上に伴う囚人再配置計画進行中。

【消費魔素】約30万+α

【結果】精神的充足+日向ぼっこ(効果:幸福感上昇)



今回は、“働かせすぎないための休息”ではなく、

“休みすぎないための管理”の話でした。


効率を上げることは簡単だけど、

組織を回すうえで本当に大事なのは、過剰な効率化を制御する理性。

主人公はそのバランス感覚を、感情ではなく構造で理解しています。


彼にとって“優しさ”とは、甘さではなく仕組みの安定なんですよね。

だからこそ、合理的な会話の中に、

エリザベートとの日向ぼっこ――ほんの一瞬の温度差が際立ちます。


余談ですが、スコップとシャベルって地域で呼び方が逆なんですよね。

関東では「スコップ=小さい」「シャベル=大きい」、

関西ではその逆。

……無用な争いは避けたいので、どちらがどちらかは明記しませんでした。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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