農場生成計画報告 ~合理性と温もりの共存実験~
輸送隊が出発した。
「さて、ダンジョンの改築をしようか」
とはいえ、二階層にカプセルを五十個増設するだけだ。
看守用の部屋はまだ必要ない。
ミックとジョージは滞在日数が少ないから、一階層で十分だろう。
二階層の建築には、一階層の倍の魔素が必要になる。
だが、得られる魔素も倍近くになるようだ。悪くない投資だな。
さて、輸送隊が商人を説得して戻るまで、少し時間が空いた。
……近くの農村の支配を先に進めるか?
「ミック、近くの農村の人口ってどのくらいだ?」
「だいたい二十~三十世帯ほどなので、百人前後かと」
「うん、面倒だ。後回しにしよう」
商人が実際に出入りし、村人たちが興味を持ち始めてから支配すればいい。
効率的にいこう。
「エリザベート、ひとつ聞くが――ダンジョン内で作物って育つのか? 俺の知識じゃ分からん」
「考えたこともありませんが、カプセルや食堂が存在するくらいですし……
畑が存在できない理由は、特に無いと思います」
「ミック、ジョージ。お前らはどう見る?」
「ダンジョンで成る果実が薬になるとかで、オークションで高値が付くと聞きました。
可能だと思います」
「分かった………囚人の中に農民はいるか?」
「農民はいませんが、農村育ちは何人かいたはずです。確認してきます」
「そうか。連れて来られるか?」
「了解」
「じゃあ、その間に俺はゴーレムを生成するか」
俺が生成すると、いわゆる“ネコ”と呼ばれる一輪車が五台、目の前に現れた。
「これが……ゴーレムですか?」
エリザベートが不思議そうに首を傾げる。
「この車輪の部分がゴーレム化してる。
動力補助をしてくれる仕組みだ。
自走まではしない――坑道はでこぼこしてるから、勝手に走らせたらすぐ転ぶ」
「なるほど、そういうことですか」
エリザベートが感心したように頷く。
「つまり、“少しの力で押せば動く”って感じだな。
まあ、形状は俺が生成しただけだ」
続けてツルハシ、スコップ、シャベルをそれぞれ五本ずつ生成した。
「どれもミスリル製だ。冒険者が武器にしても通用するレベルだぞ」
「また……斜め上なものを生成しましたね」
最後にミミックを二匹生成した。
ツルハシ等で掘削し、ネコで運び、ミミックに収納。
坑道外へ搬出したら、看守が洗浄・精製して、またミミックに収納。
――これで作業効率はぐっと上がるだろう。
そんなことをしているうちに、ミックとジョージが六人の囚人を連れて戻ってきた。
農業の話をする前に、まず新しい“便利グッズ”の使い方を説明した。
すると囚人の一人が、少し不満げに口を開いた。
「そんな便利なものがあるなら、もっと早く出してくれても良かったんじゃないですか?」
「別に出すのは構わんが、効率が上がってどうするんだ?」
「えっ……?」
その場にいた九人全員――ミックもジョージもエリザベートも――ぽかんとした。
「効率上がって鉱石の採掘量が増えたところで、
増えるのは“ノルマ”か“暇な時間”だぞ?」
「看守の立場で考えてみろ。囚人全員が午前中で作業を終えて、
風呂でのんびりしてたら……とりあえず『働け』って言うしかないだろ」
ミックを見ると、ものすごく納得した顔で頷いていた。
「今回は別だ。今後、囚人を何人か別の作業に回すため、効率化が必要になった。
だからこのタイミングで出したんだ」
「お前ら囚人の労働は“刑罰”の一部だ。
本来もっと過酷で当然なんだよ。
ただ、俺の目的とお前らの存在がうまく噛み合ってるから、今の待遇があるだけだ」
「なるほど……一々納得ですね」
ミックが感心したように言う。
発言した囚人も、反省というより感心している様子だった。
「折角来てもらって悪いが、まずはこれらの道具を坑道に運んで試してみてくれ。
実際に動かしてみないと分からん部分も多い。
二時間後に再集合だ」
「了解です!」
全員が胸に拳を当てて敬礼する。
……あれ、ここは軍隊か?
「その間に、俺は農場を“形”にしておく。
戻ってきた頃には、もう出来てるはずだ」
ミックが目を丸くしていたが、すぐに笑って肩をすくめた。
「……相変わらず、やることのスケールが違うな」
「褒め言葉として受け取っておく」
囚人たちが坑道へ向かっていくのを見送りながら、
俺はゆっくりとダンジョンの深部に視線を向けた。
さて、農場作りだ。
まずは一キロ四方。
ダンジョンタイプは“平原”でいいか。
ダメなら作り直せばいい。
擬似太陽光も設置する。
費用三十万魔素。……高い。
だが必要経費だ。無駄遣いじゃない。
(ミスリル道具は……ちょっとやりすぎたか? まあ、気にしない気にしない)
「というわけで――農場、生成ッ!」
高額の魔素を使うから、気合いを込めて掛け声を上げた。
……別に何も変わらないけど、気持ちの問題だ。
「ほへぇ……」
隣のエリザベートが、口を半開きにして固まっていた。
ちなみにこの擬似太陽光はヴァンパイアでも問題ない。
事前に確認済みだ。
初めて浴びる“太陽”の光。
色々と感じるところがあるのだろう。
「広いですね」
……そっちかい!
次の行動は決まっている。
「出でよ、レジャーシート」
レジャーシートを引いて、どかっと座り込む。
「エリザベートも来い。せっかくだから日向ぼっこでもしよう」
ダンジョンマスターになって初めて、日の光の下でのんびりした。
エリザベートも、少し挙動不審ながら楽しそうだ。
――今日も、いい一日だ。
【ダンジョン経営報告】
【改築】二階層:宿泊カプセル+50(建築魔素×2)
【開発】農場区画(1km²・平原タイプ・擬似太陽光)
【生成】補助ゴーレム(ネコ型)×5/ミミック×2/作業道具(ミスリル製)
【新規作業】坑道効率テスト(所要2h)
【備考】労働効率向上に伴う囚人再配置計画進行中。
【消費魔素】約30万+α
【結果】精神的充足+日向ぼっこ(効果:幸福感上昇)
今回は、“働かせすぎないための休息”ではなく、
“休みすぎないための管理”の話でした。
効率を上げることは簡単だけど、
組織を回すうえで本当に大事なのは、過剰な効率化を制御する理性。
主人公はそのバランス感覚を、感情ではなく構造で理解しています。
彼にとって“優しさ”とは、甘さではなく仕組みの安定なんですよね。
だからこそ、合理的な会話の中に、
エリザベートとの日向ぼっこ――ほんの一瞬の温度差が際立ちます。
余談ですが、スコップとシャベルって地域で呼び方が逆なんですよね。
関東では「スコップ=小さい」「シャベル=大きい」、
関西ではその逆。
……無用な争いは避けたいので、どちらがどちらかは明記しませんでした。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




