人員再配置計画 ~均衡を保つ支配体制の夜~
今日はジョンとポールが出発する前の最終調整だ。
……なんか最近、打ち合わせばかりで嫌になってくる。
ダンジョンマスターって、会議に追われる職業だったか?
「一つ確認なんだが、囚人が死んだ場合はその後の処理どうなる?」
俺がそう切り出すと、ジョンが手元の書類をめくりながら答えた。
「本来はゾンビ化防止のため、町に遺体を運んで教会で浄化してから火葬・埋葬します。
今から三百五十年ほど前、魔素の暴走で国民が次々とゾンビ化した事件があって以来、
死体の扱いは厳しくなったんです。」
ポールが補足する。
「そのための棺が宿舎の地下にあります。魔封じの術式が刻まれていて、運搬中に魔素が漏れません。」
「そんなものがあったのか。地下までは見てなかったな。」
俺は少し驚いた。どうやらこの鉱山、想像以上に体制が整っているらしい。
「それで、“魔素の暴走からゾンビ化”ってのは具体的にどういう理屈だ?」
尋ねると、ジョンが頷きながら説明を続けた。
「人間の体に外部から急激に大量の魔素が入ると、魔素ゾンビになるそうです。
その部分に関しては口煩く指導入りますので最近では実物を見た者も居ないでしょう。
ダンジョンの深層に行けば行くほど魔素は濃くなりますから、
初心者冒険者が長く滞在すると、数日で体が紫色に変色して――放っておくとゾンビ化します。
その症状が出た時点で教会に行って“浄化”を受けることが国民の義務になっています。」
続けて、ジョンは少し表情を曇らせる。
「この現象は“魔素多忙症”と呼ばれています。
ただ、ベテラン冒険者は時間をかけて魔素を体に馴染ませているので問題ないです。
――要は、急激な摂取だけが危険なんです。」
「急激でなければいいんだな。」
俺は短くそう言って、すぐに次の案を出した。
「なら、カプセルを二階層に移すか。」
「……え?」
ジョンが目を丸くする。
「階層が上がるほど魔素が濃くなるだろ?
段階的に慣らせば、より効率的に魔素を取り込める。人体実験だ。」
「やはり、そういうところはクールですね。」
「囚人なんて脳筋なんだから、単純な身体能力でも鍛えておく方がいい。
懲役明けの再就職にも役立つだろ。」
「……論理的にはめちゃくちゃ正しいことを言ってますね。」
話がまとまったところで、俺は本題に戻る。
「さて、話を戻すが――ジャックの件だ。
あいつを“死んだこと”にして、別の身分で商人として動かせるようにしたい。」
ポールが少し顔を引き締める。
「はい。ただ、その場合、“遺体”が必要になります。
棺に入れれば死んだことにできるという話ではなく、
ジャックの場合借金奴隷なので死亡確認と同時に徳政令出さなきゃならなくなるので
より厳しい確認が必要ですね
教会の検分と浄化の記録に加え
憲兵隊からの死亡報告書を通して正式に死亡登録する必要があります。」
「なるほどな。」
俺は軽く頷いた。
「まぁ他から流れて来た体の商人が一人増えたぐらいでは目立たないだろう
とりあえずジャックの“死”は保留にしておこう。」
「後は町の住人の拉致だな
ジョン、ポール――以前言った孤児の件、よろしく頼む。」
ミックが首を傾げる。
「孤児? なんの話です?」
「町で二、三人、ダンジョンに適応できそうな浮浪孤児を探してもらう。」
ジョンが答える。
「考えたのですがマックスとブレンダ、の双子で良いと思ってます。
生きることに貪欲で、頭の回転も速いです。」
「……ふむ。だが素行はどうだ?」
「育ちは悪いですが、メイズ様に合いそうな気がするんですよね。」
「素行の悪さに目を瞑って俺に丸投げか。
まぁいい、その二人を第一候補で行動してくれ。」
「了解です。」
一通りの話がまとまったところで、俺は椅子から立ち上がった。
「では赤い羽根を呼んでくれ。」
すぐに冒険者たち五人が食堂に入ってくる。
「この間の答えは出たかな?」
リーダーのウォーレンが一歩前に出て、静かに頷いた。
「赤い羽根五名、マスターの命令に従います。」
「懸命な判断だ。」
俺はわずかに笑い、名乗りをあげる。
「改めて名乗ろう。――メイズ・ラビリンスだ。これからよろしく頼む。」
ウォーレンが代表して頭を下げた。
「斥候のウォーレンです。
同じく回復魔術師のランディ、前衛のアレックスとラルフ、攻撃魔術師のタフィ。
今後ともよろしくお願いします。」
「よし。」
俺は頷き、視線をジョンへと向ける。
「町に戻ったら、御者の五人、ジョン、ポール、赤い羽根で“ディビット商会”を説得してくれ。
……ジャック、お前も同行だ。」
ジャックが一礼する。
「会頭ディビットとは顔見知りです。話は通しやすいでしょう。」
「魔素玉を五個持っていけ。 一ヶ月はそれで保つはずだ。」
「助かります。」
ジャックが微笑む。
「町に入るとき身元検査とかあるか?」
「軽くありますが、私たちが一緒に行くんですよね。入るとき身元保証するので問題ありません。」
ジョンが答える。
「お忘れですか? 身元調査を担当してるのは、私たち憲兵です。」
「そうだったな。」
俺は苦笑した。
これで一通り、決めなきゃいけないことは決まった。
「じゃあ、送別会にしよう。今日は食べ放題、飲み放題だ。」
エリザベートが優雅に笑みを浮かべ、カップを掲げる。
「では――メイズ様の支配に、乾杯。」
【モード】等価交換モデル(安定稼働)
【新規契約】看守班・冒険者班協定/協力体制確立
【入手魔素】月19万前後(血・髪・滞在・生活循環含む)
【生産対象】鉄・魔鉄・魔石(循環生成補填)
【経済効果】稼働率+22%/支配安定率+18%/協力者+6名
【備考】囚人カプセルを二階層へ再配置/魔素多症リスク観察中/商業ルート開拓準備完了
秩序はいつも、静かな場所から生まれる。
支配とは暴力ではなく、整えること。
この夜、メイズ・ラビリンスは初めて“管理者”として世界を見た。
積み上げた均衡の上で、彼の支配はようやく安定しはじめる。
それが、世界の歪みの始まりだとも知らずに――。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




