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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第二章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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対外関係構築報告 ~護衛制度と商業路線の再編~

翌日。

鉱山はいつも通り稼働していた。

囚人に“休日”などという概念はない。特別な事情がない限り、彼らの一日は同じように過ぎていく。


俺は昨日こちら側についた看守――ミックとジョージ――を含む七人で、

五人の冒険者と五人の御者に会うことにした。


食堂に入ると、すでに全員が揃っていた。

昨日の件で空気はだいぶ柔らいでいるが、

ミックとジョージに比べると、冒険者と御者の十人はまだ緊張が抜けていない。


机をどかし、椅子だけを並べて六対十の形で座る。

俺の背後には、いつものようにジャックが控えている。



「さて、集まってもらって悪いな。

昨日のうちにミックとジョージは籠絡しておいた。だからこうして座ってる」


ジョンが苦笑しながら口を挟んだ。

「全く、言い方というものを覚えませんね」


「マスターには少し黙っててもらって、俺から説明するよ。

マスターやエリザベート様より、俺たちのほうが話しやすいだろ?」


彼は全員を見回しながら続けた。


「昨日体験してもらった通り、このダンジョンは“人のあらゆる部分”を搾取してる。

だけど、きちんと見返りも用意してくれるんだ。――困ったことにな。

だから反抗しにくい。最終的には、こうして籠絡されるってわけさ」


「結局いっしょじゃないですか!」

と、ポールが笑いながら突っ込む。



冒険者のリーダーらしき男が腕を組んだ。

「で、俺たちはどうなるんです? 何をすればいいんですか?」


ジョンが目で合図してくる。

――はいはい、俺の出番か。


「お前らに要望? 特にない」


食堂全体が「は?」という空気に包まれた。


「いや、もう血ももらったし、帰りまで好きに過ごしてくれ」


ジョンが肩をすくめて補足する。

「な? こんな感じなんだよ」


食堂の空気が一気に緩む。


「まあ、守秘義務の都合で帰り際に“沈黙の催眠”はかけるけどな。

それ以外に要求はない」



「敢えて言えば――」

俺は軽く顎に手を当てる。


「今後、商売を始める予定だから、商人とのツテが欲しいくらいだな。

そのへんはジョンとポールに頼むつもりだけど……

御者の皆、雇い主の商会はどこだ?」


御者のリーダーらしき男が答える。

「ディビット商会です」


「ジャック、知ってるか?」


「よく存じております。信用に値する人物です」


「でもお前を助けてくれなかったんだろ?」


「仕方ありません。保証金が一個人で払える額ではありませんでしたから」


「なるほど。お前がそう言うなら、そうなんだろうな」



「で、ディビット商会は――一枚噛むか?

確実に儲かる案件だぞ」


「そうですね」

とジャックも頷く。

「どう考えても、確実に儲かりますね」


御者リーダーは困ったように答えた。

「自分ひとりでは決めかねます」


「まあ、当然だな。御者への要望はそれだけだ。

で――冒険者たちへの“敢えての要望”だが」


俺は冒険者側に視線を移した。


「お前ら、五人でパーティーなんだな?」


「はい。“赤い羽根”です」


「ブフゥホゥッ……!(共同募金かよ)

悪い、変な声出たわ」



「冒険者には、行路の護衛を頼みたいと思ってる。

……が、先に種明かししないとな」


俺は小声で“生成”を始めた。

淡い光が揺れ、床の上に――

RPGでお馴染みの、立派な装飾が施された宝箱が出現する。


初めて生成を目にした連中が、一斉に息を呑んだ。


「俺の行路での荷物は全部これに入れる。

――いわゆる一つの“ミミック”だ」


「えっ!」


見事にハモった。


「この子は空間魔法が使える。

攻撃・防御ともに冒険者なら知ってる通りの性能だ。

だから護衛中に何かあっても逃げて構わない。

いや、むしろ率先して逃げろ。ミミックに任せればいい。

最悪、被害は馬と馬車だけだ。

場合によっては、馬もモンスターに変えるかもしれんがな」


「……それ、もう護衛要らないのでは?」

冒険者の一人がぼそっと漏らす。


「形式上護衛無しで行商する商隊あるか?

無くても問題ないが無いと意味無く目立つ事になる。

それはまだ避けたい。

お前らの仕事は楽になるはずだから問題無いだろ?」



「要するに――」

俺は締めくくるように言った。

「販路はディビット商会、護衛は赤い羽根。

その二本立てでやりたい。それが俺の“敢えての要望”だ」


冒険者のリーダーがぽつりと呟く。

「……めっちゃまともだ」


ジョンが笑って肩をすくめる。

「な? 全部マスターの掌の上なんだよ。

言うこと聞いてりゃ、間違いは起きない。

――そう思わされるんだ」



「契約で求める対価は、月一回の献血だけだ。

ダンジョンにいない間は求めない。

滞在中は囚人より良い飯が出る。

朝食は食っただろ。夜は昨日のエール付きだ。

ただし飲みすぎ注意な。囚人の手前もある」


「風呂と寝床はタダだ。

あと、冒険者にはC〜Dランク相当の装備なら支給してもいい。

平均より少し上くらいのやつな」


俺は立ち上がった。


「そんなところだ。返事は町に戻る時で構わん。

帰るのは明後日でいいか?」


ジョンが答える。

「滞在予定三日なので、明後日か、その翌日でも問題ありません」


「よし。――じゃあ解散だ。

ダンジョン生活、存分に楽しんでくれ」


今回の話は、“ダンジョンの外との最初の接点”を描いた話でした。

囚人・看守という内部の枠組みだけでなく、

冒険者や御者――つまり、外の常識を持つ人間たちが初めて関わる。

そのことで、「ダンジョン」が単なる閉鎖空間から、

社会と接続し始める場へと変わり始めています。


マスターにとっては、善意でも理想でもなく、

ただ「合理的だからそうする」という判断に過ぎない。

けれど、その無機質な判断が、結果として

“誰も損をしない仕組み”を作り出していく。

この章は、その最初の一歩です。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。


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