【閑話】排出物利用研究ノート ~善意と便意の狭間における倫理観~
「あっマスター、ただいま戻りました!
今日はオーク2匹に、ボア3体狩れました!
今、食堂で解体してもらってます!」
トーマスが上機嫌で報告してくる。
後ろには採取班の面々もぞろぞろと続いていた。
ダンジョンのポイント換算は“部位ごと”ではない。
そのため結果的に、肉の上等な部分ばかりが囚人たちの食卓に並ぶことになる。
効率的には正しい。
だが、どうにも腑に落ちない。
――と、ふと気づく。
彼らが手にしている袋から、妙な臭気が漂っている。
衛生管理バッチリのダンジョン内で、あの匂いはおかしい。
まるで汚物を大事に抱えているようだ。
「……お前ら、その袋、なんだ?」
トーマスが笑顔で答える。
「えっ、う◯こですけど?」
汚物だったーーーーー!!
「なんでわざわざう◯こ持ち歩いてんだよ!!」
「だって、マスターが言ってたじゃないですか。
“排出物はダンジョンにとって有益”って!
だから、無駄にしないように、採取中に出した分は全部持って帰ってきてるんです!
……さすがに小の方は液体で管理難しいので、やめてますけど」
採取班全員が、誇らしげに頷いた。
「もしかして……“おしっこ”持って帰ってこなかったから怒ってます?」
――そっちかよ!!
俺が元凶なのは確かだが、
この方向で真面目に努力されると、なんかもう負けた気がする。
「……いや、いい。気持ちは分かった。
でもな、もうその場に放置で構わん。
頼むから、持って帰ってくるな」
「えっ、でもポイントが――」
「いいから! 俺のポリシーに反する!」
「……わかりました。じゃあ、次からはダンジョンに帰るまで我慢します」
「……いや、無理すんなよ。
漏らしたら元も子もないからな」
――何故か、とてつもなく疲れた午後だった。
【衛生指針】排出物持ち帰り制度:即日廃止
【理由】精神的疲労過多/管理コスト過大
合理を突き詰めた結果、善意がトイレを越えた回。
真面目に頑張る彼らを叱れない俺が一番の敗者かもしれない。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




