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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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採血制度導入報告 ~合理主義的搾取モデルの実証~

風呂上がりの一行がようやく落ち着きを取り戻したころ、

俺はエリザベートを呼び止めた。

「ところでエリザベート。……血、吸いたい欲求とかあるの?」

紅い瞳が一瞬だけ瞬く。

「ダンジョン内にいる間は、特に必要ありません。

 ただ――血を摂取することで、私の成長が促進されるのは確かです。

 なので……機会があれば、摂取したいと思います。」

「なるほど。了解。……でも、もうちょっと待っててね。」

「なぜです?」

「今はその“血”を、ダンジョン育成に使いたいんだ。」

「?」

理解不能――という顔。

そのわずかな眉の動きが、妙に人間らしい。

________________________________________

「――というわけで、採血を行います。」

俺が宣言すると、周囲がざわめいた。

食後の満腹ムードが一気に冷める。

前に立たされたトーマスが、きょとんとした顔で首をかしげた。

その前には、ダンジョン製の採血キットが整然と並んでいる。

「トーマス、前へ。」

「えっ、はい。……俺、またなんか悪いことしました?」

「してない。ただ、血が欲しい。」

トーマスは露骨に引きつった笑みを浮かべた。

「……え、あの、マスター? その言い方……」

「安心しろ。吸うのはエリザベートじゃない。採るだけだ。」

「採る……?」

俺はキットを手に取り、エリザベートに差し出す。

「この注射器をこの血管に入れて、400ミリ抜いてくれ。」

「了解しました。」

エリザベートが無表情のまま、淡々と作業を始める。

その仕草は驚くほど丁寧で、ほとんど医療従事者のようだった。

トーマスの腕に針が刺さる瞬間、ほんの小さく息を呑む音。

赤い液体が静かにチューブを満たしていく。

________________________________________

俺は全員に向かって言った。

「今後、1か月に一度、この採血をしてもらう。

 400mlずつ。これが、ここで暮らすための“契約”だ。

 この採血さえ協力してくれれば、

 住環境は保証する。

 食事、風呂、寝床――すべて維持する。

 それに――さらに特典もある。」

「と、特典?」

誰かが不安混じりの声で聞く。

「そう。労働時間の短縮とか、食事のアップグレードとかね。

 血を抜かれるのは嫌かもしれんが、

 “自分の血で自分の生活を回す”って、ある意味、最高に合理的だろ?」

エリザベートが小さく呟く。

「……倫理観を、経済で殴ってますね。」

「血は資源だ。使わなきゃもったいない。」

________________________________________

「エリザベート。各自に、俺とお前とジャック、その他眷属に対して

 危害を加えない――その程度でいい。軽い誓約を結んでおいてくれ。」

紅い瞳が俺を見つめ、わずかに細められる。

けれど、表情はどこか柔らかくなっていた。

「……理解不能、ですが。

 マスターは、やはり“生き物”を上手く回すことに長けていますね。」

「経営は愛だよ、エリザベート。」

「……その言葉、どこか間違っている気がします。」

紅の瞳がふっと揺れた。

嘲笑ではなく、呆れでもなく――

そこには、わずかな“敬意”と“畏怖”が混ざっていた。

________________________________________

【現在のステータス】

項目内容

契約名《血液供与協定》

対象者人間32名(看守含む)

内容月1回・400ml採血(ダンジョン魔素転換率:血1ml=魔素10)

見返り生活保証(食事・風呂・寝床)/特典制度導入予定

効果ダンジョン魔素効率+25%/眷属安定率+15%

新システム“血液ポイント経済”解禁(供与量=貢献度換算)

エリザベート医療行動習熟+20%/倫理観混乱+10%/マスター理解度+3%




ここで、ついに“生活型ダンジョン”が本格的に自立しました。

もはや支配ではなく、社会システムとしての運用が始まっています。


「血=資源」「幸福=燃料」「労働=循環」

これらを“契約”として整えることで、

主人公の支配は暴力から完全に離れ、合理的秩序へと昇華しました。


そしてエリザベート。

彼女の“理解不能”は、もう拒絶ではありません。

マスターの思想を“異端”として受け入れ始めた――

この瞬間から、吸血姫は眷属ではなく、観察者として進化を始めています。


次章から、彼らの社会は「運営」と「思想」のフェーズへ。

いよいよ、ダンジョンは世界を飲み込む“企業”になります。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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