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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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食文化形成論 ~摂食行動と労働満足度の関係性~


「先ずは飯だな」

俺は軽く指を鳴らした。

「今日は特別に、料理そのものを生成する」

「生成、ですか?」とエリザベートが首を傾げる。

「そう。

 普段は素材から作る方がコスパいいんだけど、今日は説明用。

 ……まあ、質より量だな」

「ありがてぇ……!」

トーマスが目を輝かせる。腹が鳴る音が聞こえた気がした。

俺は魔法陣を展開させ、テーブルの上に湯気を立ちのぼらせる。

________________________________________

「ハンバーガー2個(ダブチ仕様)。

 ピザLサイズ(パン生地タイプ)。

 あと飲み物は……ビールでいいな。生ビール2つ。おかわりは無し。

 後は水飲め」

テーブルが眩く光り、瞬く間に料理が整列する。

ジャックが目を見張った。

「これは……匂いも温度も、まるで本物だ」

「本物だよ。材料の魔素から再構成してるだけ」

俺は腕を組みながら説明を続ける。

「このダンジョンシステムな、生肉の方が焼いた肉よりポイント高いんだよ」

「……要するに、“加工すればするほど価値が落ちる”ということですか?」

「そうなる。

 つまり、調理=無機物化扱い。理屈は謎だが、まあ便利だからいいか」

エリザベートがぼそっと呟く。

「……それを“便利”と表現できる神経が理解できません」

________________________________________

「あれ? ジャックは吸血鬼だから食事いらない?」

「空腹感は特にありませんが、食事自体は可能です」

エリザベートが補足する。

「ダンジョン内では魔素供給を受けているため食事は不要。

 しかし、人間として長く生きてきた者は――

 “食べない”ことが精神的な欠損につながる可能性があります」

「なるほどな。

 じゃあ精神衛生のために食べてもらおう」

「……私は時々、血を頂ければそれで十分です」

小声で言うエリザベート。頬が少しだけ赤い。

________________________________________

その横で、トーマスがハンバーガーにかぶりついた。

「この肉うっめぇぇぇ! このパンもうっめぇ!

 このエールもキンキンに冷えてやがるぅぅぅ!」

「……うるさいですね。飲み込んでから喋りなさい」

「す、すまねぇ姫さん!」

ジャックは対照的に、落ち着いた手つきでナイフを使い、

ピザを綺麗に切り分けていた。

「うむ……これはいい。歯も胃も、昔とは比べものにならん」

「ジャック、若返る前なら食べきれなかっただろ?」

「……確かに。

 いやはや、死の床からまさかこんな美味しい物を食べられるとは」

「人生、どこで吸われるかわからんもんだな」

「……その言い方は語弊があります」

「だって実際吸われたじゃん」

「訂正できませんね」

何気にエリザベートのツッコミ能力上がって来てる気がする。


二人の食事風景を見ながら、

俺は小さく満足げに頷いた。

ダンジョンで生きる者たちが、初めて“生者としての食事”をしている。

その行為そのものが――この拠点における“生命の再現”。

テーブルの端で、

俺のコアが淡く光り、微量の魔素を吸収していた。

「……うん、食べてもらうだけで魔力回収。

 やっぱり食堂、作って正解だったな」

「マスター、それ吸ってるのは何ですか?」

「たぶん……満足感とか、幸福とか、そういう成分」

「吸血鬼よりタチが悪いですね」


「さて――次は風呂だ」

俺の号令で、トーマスとジャックが列をなす。

二人とも、さっき食堂でハンバーガーとピザを貪り食った直後。汗と油でテカテカしている。

「まずはこの“熱い部屋”に入って汗を流して汚れを浮かせろ。時間は……最初は五分から慣らしていけ」

目の前には、石造りのスチームサウナ。

壁面から噴き出す蒸気が空気を揺らし、視界がかすむほどの熱気。

水の魔法陣が霧を生み、火の魔法陣がそれを瞬時に蒸発させる。湿度、ほぼ100%。

「ご、五分も!? マスター、燃える……!」

「燃えない、蒸されるだけだ。黙って汗を出せ」

エリザベートが腕を組みながら小さく首を傾げる。

「……もはや拷問の域です」

「健康維持の基本だ」

――五分後。

ジャックは涼しげな顔で立っていた。汗ひとつかかず、むしろ肌が艶めいて見える。

一方のトーマスは、すでに半死半生。

「次に、水風呂に入れ」

「ひゃっ……!? つめてぇっ!」

「まず下半身だけ入って十数えろ。終わったら肩までつかって五十数えろ」

「五十……!? 五十って……どのくらいですか……?」

「トーマス、五十まで数えられるか?」

「……が、頑張ります!」

「マスター、これは修行です」

「健康法だ」

「そしたら5分ベンチで休憩。

よし、次は温泉。

五分から十分入って体を温めろ。

それを三周だ」

「三周!?」

「文句言うな、循環が大事だ」

三周目を終えるころには、ジャックは涼しい顔で肩まで湯に浸かり、

トーマスは真っ赤になって魂が半分抜けていた。

「これで血流も代謝も完璧だ。死んでた毛根も蘇るぞ」

「マスター、そうなのですか?」

「いや、次の作業の前振りだ」


「ジャック、トーマスの頭――丸坊主にしておいてくれ。はいバリカン(手動)。

髪の毛はその隅にまとめておけ」

「!? 了解致しました」

「えっ!? マ、マスター!? ちょっ、待っ――!」

ザクッ、ジョリジョリジョリ……

「何でいきなり坊主!? ジャックさんは!? 坊主にしなくていいの!?」

「ジャックは眷属だからポイントにならん」

「よし、それも立派な有機物資源だ。無駄なく魔素化できるな」

「……マスター、エコの方向が間違っています」

「ダンジョンに“無駄”は存在しない」

「着替えはこれな」

ゆったりとした上着に短パン。完全に健康ランドの休憩所にいる人達の格好である。

エリザベートが静かに頷いた。

「マスターの思想が、だんだん理解不能になってきました」

「その内慣れるさ」

紅い瞳が、わずかに呆れと笑いを帯びる。

その表情を見て、俺は口角を上げた。

こうして、ダンジョンの“循環型風呂施設”が稼働を開始した。

清潔、効率、そして――髪まで無駄にしない完璧なエコシステムである。

________________________________________

【現在のステータス】

•設備名:循環型風呂施設「温魔湯オンマユ

•効果:汚れ・疲労・精神ストレス回復(中)/魔素回収効率+3%

•副産物:有機廃棄物ポイント化(髪・垢・汗対応)

•トーマス状態:精神疲労100%→心身再構築中

•エリザベート:ツッコミ適正+20%/理解不能度+10%(ただし好感度+5%)


食べる、風呂に入る、寝る。

それだけで人間は“生きている”と錯覚できる。


命を奪って魔素を集めるより、

満足と安堵を吸った方が――ずっと効率がいい。


たぶん俺のダンジョンは、世界で一番“人間的”な構造をしている。

……いや、“人間的すぎる”のかもしれない。


エリザベートが笑った。

あの一瞬の呆れ顔が、今日いちばんの報酬だった。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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