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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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吸血姫眷属化計画 ~支配と共感の境界領域に関する考察~

俺たちはボス部屋に戻ってきた。

いよいよ――この二人に、“生活型ダンジョン”の恐ろしさを味わってもらう時が来た。

まずは、老人ジャックの扱いを決めねばならない。

壁際に横たわる彼は、まるで枯れ木のようだった。

呼吸は浅く、今にも止まりそうだ。

白髪の髭、乾いた肌、痩せ細った手。

元商人だったというが、今の姿からは面影すら感じられない。

エリザベートが膝をつき、そっと脈を取る。

紅い瞳が淡く光った。

「……大分弱っていますね。

 今すぐというわけではありませんが、先は長くないです」

俺は腕を組んで唸った。

「そういえば、この人――極悪人じゃなかったな」

「ええ。商売で失敗して、借金奴隷になっただけのようです」

少し考えてから、俺はぽんと手を叩いた。

「なあエリザベート、眷属化ってできるよね?」

「……出来ますが、警告しておきます。

 今の私は“レッサー・ヴァンパイア”です。

 この段階で眷属化しても――出来るのは“弱い眷属”ですよ?」

「いいよ。うちのダンジョンに“強さ”は要らない」

紅い瞳が小さく瞬く。

「……?」

「必要なのは“使える知恵”だ。

 元商人なら金勘定が得意だろ?

 それだけでも充分価値がある。

 ……それに、“元気に動ける”ってだけで忠誠度MAXだろ」

エリザベートは一瞬だけ視線を伏せ、

その頬にわずかな温度が宿った。

「……では、眷属化します」

________________________________________

彼女は静かに老人の首筋へと顔を寄せ――

カプッ。

噛みついた瞬間、魔素がぱっと弾けた。

吸血というよりも、“命の起動”に近い。

老いた体に光が巡り、血が逆流するように温かさが戻っていく。

「そういえばヴァンパイアだったな……。

 可愛いから忘れてたわ」

「…………マスター、お戯れを」

「照れんなって」

________________________________________

やがてジャックの身体が淡く発光し、

萎びた皮膚に血色が戻っていく。

しわが消え、髪には色が差し、筋肉が引き締まる。

そして――

「……ふぅ……これは……?」

老いた声ではなかった。

若々しく、張りのある声。

エリザベートが淡々と説明する。

「曲がりなりにも、レッサーとはいえ“ヴァンパイアの眷属”です。

 肉体はその者の“最盛期”の姿に戻ります。

 この方の場合、三十歳前後。

 病気などはしませんが、寿命は人間と同じ。

 百二十歳前後が限界です。

 限界を迎えると、霧となって消滅します」

俺はうんうんと頷いた。

「つまり――あと五十年は働けるわけだ」

ジャック――いや、若返った男は目を見開き、両手を握る。

「……体が……軽い……! 目も……よく見える……!」

「おめでとうジャックさん。リハビリがてら、ダンジョン経営よろしく」

「は、はぁ!? 経営……!?」

エリザベートが額を押さえた。

「……マスター、説明を省きすぎです」

________________________________________

世界通貨基準表

通貨下位換算日本円換算(概算)

白金貨大金貨10枚約1億円

大金貨金貨10枚約1,000万円

金貨大銀貨10枚約100万円

大銀貨銀貨10枚約10万円

銀貨大銅貨10枚約1万円

大銅貨銅貨10枚約1,000円

銅貨鉄貨10枚約100円

鉄貨―約10円

※流通の実用範囲は「銀貨」まで。金貨以上は国家間取引用。

________________________________________

「ジャックには、経理と経営管理を任せる。

 市場価格と魔素コストの乖離を使えば、資源の変換効率を最大化できるはずだ」

俺は例を示した。

小麦10kg=魔素1000=大銅貨5枚(約5000円)

小麦粉10kg=魔素100=銀貨1枚(約1万円)

「街では素材の方が安いのに、魔素計算だと加工品の方が安くなる。

 ここを突けば、“魔素の価値差”で稼げる」

説明を聞いたジャックが、口元を綻ばせた。

「……ほう。なるほど、理屈は分かります。

 それはまさしく“錬金商法”ですな。

 ――ぜひ、やらせてください」

眷属化した事により

彼はエリザベートの過去の記憶も共有したらしい

それにより現在の自分の立ち位置、俺とエリザベートの関係等も理解している為話が早い

「じゃあ任せた。俺は経営理念だけ示す」

「理念……?」

「“無理なく、無駄なく、効率よく”だ」

「理念とは指針ですね」

「そう。理念は大事だ」

________________________________________

若返ったジャックと、筋肉の塊トーマスが並んで立つ。

どう見ても組み合わせが悪い。

「エリザベート、トーマスの催眠を解いてやってくれ。

 ただし、突発的に暴れないよう鎮静も併用な」

「了解しました」

紅い瞳が淡く光り、トーマスの意識がゆっくり戻る。

混乱したように辺りを見回したが、鎮静効果のせいかすぐに落ち着いた。

隣のジャックを見て――一瞬、息を呑む。

「……誰だ? お前……」

「はは、同室だったジャック、元老人だ」

「……嘘だろ」

しばらくはそのやり取りが続いたが、

やがてトーマスも状況を理解したのか、

落ち着いた表情で俺たちに頭を下げた。

________________________________________

「では、二人にはダンジョンを――探索してもらおう」

「マスター、言葉はきちんと選ばないと誤解されます」

「えっ」

「“探索”は侵入者の行動です。

 今回のは“見学”です」

「……おお、ツッコミが的確になってきたな!」

別の意見を伝えたのに褒められた事にエリザベートが挙動不審になった。


けれど、その口元は確かに笑っていた。


少しづつだが打ち解けてきている気がして嬉しい今日この頃であった

________________________________________

【現在のステータス】

項目内容

ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」

新眷属ジャック(元商人/レッサーヴァンパイア眷属)

役職経理・物流・経営担当

状況トーマス催眠解除済・鎮静補正あり

ボス吸血姫エリザベート(理解不能度25%→理解度20%・ツッコミ力+10%)




眷属を作るという行為は、

支配じゃなくて――共有に近いのかもしれない。


力を与える代わりに、何かを分け合う。

血とか、魔素とか、感情とか。


思っていたよりも、あたたかい光景だった。


たぶんエリザベートも、それを少しだけ感じていた。

彼女の笑い方が、ほんの少しだけ“人間らしく”なっていたから。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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