管理者業務定義書 ~創造と狂気の境界における職務設計~
「……あ、俺、ダンジョンマスターだった」
思わず口に出た。
いやほんと、うっかりしてた。
この数日、偵察だの催眠だの捕獲だの、やることが多すぎて――
本来の仕事を完全に忘れていた。
そう、俺はダンジョンマスター。
つまり、“ダンジョンを作る側”の人間だ。
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「本来のダンジョンマスターって、まずダンジョン作るよね?」
エリザベートが静かに瞬きをする。
「……今、気づかれたのですか?」
「うるさい。俺だって色々大変だったんだよ」
確かに――
ダンジョンを大きくしたい、深くしたい、という欲求はある。
それは多分、“本能”みたいなもんだ。
でもな。
「人間呼び込んで、モンスターと戦わせて、死んだらポイント回収して、
たまにお宝落として“もう一回チャレンジ!”みたいな――」
言いながら、ため息が出る。
「――そんな“教科書どおりのダンジョン運営”なんて、面白くないだろ」
俺は多分、元・日本の三十代ぐらいだと思う。
そこらへんの記憶は曖昧だ。
様々な事象は詳細に覚えているが、
自分の経験なのか、知識なのか、もう区別がつかない。
ゲームもアニメもやり尽くした。
だからこそ、定番パターンはもう飽きてる。
因みにダンジョンの元となる魔素だが成長モードの時に作った枝?は
そのままになっている様で今でも魔素を吸収し続けている。
普通のダンジョンマスターの様に5階層、10階層とダンジョンを作っているのなら
魔素も足りなくなるのだろうが俺は実際のダンジョンをほとんど作成していない
に等しいので魔素が足りなくなる事はないだろう。
大体だが「魔素消費10000全体の0.3%消費」
みたいな感じで分かる程度だ。
詳しく分かる様になるには進化が必要らしい
進化する為の能力は経験や魔素吸収量によるらしい
今のままで困ってないので魔素確認能力強化の方への進化はしないと思う
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「というわけで――」
「……はい?」
「ダンジョンの入り口に最初に作るのは――トイレです!」
エリザベートが、一瞬、沈黙した。
紅い瞳が細まり、言葉を選ぶように口を開く。
「……ト、トイレ?」
「そう、トイレ。三十人強ぐらいだから、個室が十くらいあれば足りるかな」
「……なぜ、その……排泄場が最優先なのですか?」
「トイレの清潔感で売上変わるんだぞ!
特に女子トイレは清潔感+おしゃれ感が大事なんだ!
トイレがないダンジョンなんて、衛生的にも評判悪いだろ?」
「売上? 女子トイレ? 評判……ですか?」
「そう。長期滞在できるダンジョンこそ価値がある!」
エリザベートは紅い瞳を瞬かせ、
完全に“理解不能”という顔で俺を見た。
(無理もない。生まれて一日の吸血姫に、公衆衛生の概念を語ってもな……)
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「……それで、構造はどうなさるのです?」
「入口から右手に。広さは十メートルの五メートル
個室は縦二メートル、横一メートル、奥行き一・五メートルくらいにしておこう。
立っても座っても使いやすい高さだ」
「……なぜ、そんなに真剣なのですか」
「トイレは真剣な場所だからだ」
真面目に言う俺を前に、
エリザベートは静かに瞳孔を開いて――シャットダウンした。
(また再起動待ちかな……)
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コアを中心に魔力を展開する。
床の岩が溶け、空間が十個の個室を形成していく。
深さ十メートルの魔素吸収穴を掘り、周囲を石化で補強。
そして――紙にはこだわる。
日本製のトイレットペーパーを配置!
「……トイレットペーパーホルダーが魔素消費割高って、どういうこと?」
ダンジョントイレ、完成!
散々えらそうなことを言っときながら、結果は“ポットン式”である。
だが、排泄物は魔力で分解吸収される構造なので衛生面は完璧。
さらに飛び跳ねも魔力吸収されるため、掃除の必要もなし。
半年に一度、仕切りを作り直せば悪臭も防げるだろう。
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「ということで、これで“人間が安心して生活できるダンジョン”の第一歩だ」
「……マスター。
あなたの“発想”は、時に常識を逸脱しています」
「おっ、再起動したな。それは褒め言葉だな?」
「いいえ、評価です」
「まあ、進歩だな」
段々、会話ができるようになってきた気がする。
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【現在のステータス】
項目内容
種別ダンジョンコア(スケルトン融合体)
ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」
ボス吸血姫エリザベート(覚醒段階:Ⅱ)
新設備トイレ(個室×10/高さ2m/魔力分解式)
備考マスター、ようやく“ダンジョン運営”を思い出す。ボス、理解不能度+30%。
ダンジョンを作るというのは、
誰かを閉じ込めることじゃなくて――誰かを“居させる”こと。
戦いの場よりも、まずはトイレ。
死闘よりも、まずは生活。
それを“常識外れ”と言うなら、
たぶん俺は間違いなく、常識の外側にいる。
けれど、世界を動かすのはいつだって、
そういうやつの方だと思う。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




