夜間作業報告 ~混沌下における秩序構築手法~
しまった。
俺としたことが――こいつらの寝床、用意してねえ!
蜘蛛たちが全員きれいに拘束してくれたのに、
すっかり満足して頭から抜け落ちていた。
いや、初仕事だし仕方ない。うん、たぶん。
「……色々聞きたいことはあるが、先に帰るか」
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「エリザベート、その三十代の男、拘束を解いて連れて帰れるか?」
「催眠状態にあります。歩行指示を出せば、問題ありません」
初仕事を終え、ほっとしたのだろう。
大分緊張が解けた声色で返答が返ってきた。
「よし。じゃあそっちは任せた。俺はジジイの方を担当しよう」
看守の部屋からナイフを拝借し、二人の拘束を解く。
老人――ジャックは立ち上がろうとしたが、足がふらついている。
「……こりゃ無理だな。仕方ない、抱えるか」
骨の腕でそっと持ち上げる。思ったより軽い。
「エリザベート、羨ましいとか思ってもいいぞ?」
返事はない。
無表情でトーマスを歩かせている。
……まるで屍(または照れ屋)である。
他の囚人たちは、蜘蛛たちに引き続き監視を任せた。
今夜くらいは大丈夫だろう。
というわけで――ダンジョンへ蜻蛉返り。
おかえり、我が家。
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「エリザベート、こいつらの事情を聞いておいてくれ。
多分囚人だろうけど、罪の重さによっては扱いを考えないといけない」
「……了解しました」
紅い瞳が淡く光る。
彼女が静かに口を開くたび、催眠下の二人の口がゆっくり動いた。
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【トーマス(26)】
•元冒険者。
•幼馴染と共に活動していたが、彼女が負傷して引退。
•その後、仲間運が悪く、酒の席で喧嘩。
•一発殴ったら、相手が不運にも死亡。
•罪状:過失致死。
•量刑:鉱山奴隷5年。
「……典型的な脳筋だな」
「はい。思考経路が単純。暗示抵抗も低いです」
「褒めてるのか?」
「事実です」
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【ジャック(70代)】
•元行商人。
•小商会を営んでいたが、番頭に資金を持ち逃げされ破産。
•借金返済不能で奴隷落ち。
•現在は病気で衰弱中。
•量刑:懲役12年。
「量刑が重いのは借金奴隷ってことか。
命より金の方が重罪って、世知辛いね」
「……」
沈黙。
特に感想もないのだろう。
そこまで人類の世情に明るいとは思えないしね。
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「ま、どっちも悪党って感じじゃないな」
「はい。魔素汚染の反応もありません。……再利用、可能です」
「言い方怖いって」
「事実です」
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「じゃあ今日のところは休ませよう。
部屋の隅に寝かせて、蜘蛛さんを二体新たに生成し、軽く糸で縛っておく」
「了解しました」
彼女が指を動かすと、床の魔法陣から細い糸が伸び、
二人をゆるやかに固定していく。
「エリザベート、初仕事お疲れ様」
「……私は、命令を遂行しただけです」
「それでも“助かった”んだよ」
短い沈黙。
彼女はほんの一瞬だけ視線を落とし、
掠れるような声で答えた。
「……了解。……ありがとうございます、マスター」
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紅い瞳がわずかに揺れた。
そこにあるのは、まだ曖昧な心の残響。
恐怖と困惑――
そして、初仕事を無事終えた達成感に滲む、かすかな安堵。
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【現在のステータス】
項目内容
種別ダンジョンコア(スケルトン融合体)
ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」
ボス吸血姫エリザベート(覚醒段階:Ⅱ)
支配対象トーマス/ジャック(催眠安定・尋問済)
状態捕獲・監禁安定、眷属休息中
備考初の“人間捕獲”完了。ボスの情動反応:安堵+微感情形成。
初仕事のあと、思ったよりも現実的な問題が多い。
寝床、管理、設備、そして――感情。
支配より難しいのは、生活を回すことらしい。
感情を扱うのも、魔力を扱うのも、案外似たようなものだ。
どちらも、少しのバランスで壊れてしまう。
だからこそ、面白い。
壊れたらまた作ればいい――
俺の“突貫工事”は、きっとこれからも続く。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




