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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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催眠実験報告 ~支配技術の確立と静寂効果の検証~


エリザベートの選んだ対象は――二人。

一人は三十代前半、筋肉が服を突き破りそうなほどの男。

もう一人は七十代の老人。

顔色が悪く、息も浅い。

病に侵され、命の火がかすかに揺らめいている。

「……その二人で良いのね?」

俺の問いに、エリザベートは静かに頷いた。

「はい。成功確率の高い対象を選定しました。

 この男は思考が単純で、魔力干渉を受けやすい構造です。

 もう一人は衰弱が進んでおり、抵抗が著しく低下しています」

淡々とした報告。

論理的で正確だが、その声音には“失敗への恐れ”が滲んでいる。

「もっと気楽に構えていいよ。失敗しても何も失わないんだから。

 駄目だったら他の人間に試せば良いだけだし。

 まぁ、そうは言っても――エリザベートの初仕事だ。頑張って実行してくれ」

「……了解しました」

彼女は静かに歩み寄る。

________________________________________

三十代の男――筋肉ジャイアン――の前に立ち、紅い瞳を細めた。

手を上げたかと思えば――パァンッ!

乾いた音が室内に響く。

「……成功です。

 脳波の乱れ、沈静化を確認しました」

彼女の声がわずかに掠れる。

自分の手を一度見下ろし、指先を小さく動かす。

「……魔力の流量、次回は調整が必要です」

「……叩いた?」

「はい。驚きによる意識の一時停止を誘発。

 その瞬間に魔力干渉を流し込みます」

「なるほど。……割と実践的だな」

「説明の必要はありません。行動で示します」

言葉は冷たく、だが動きは正確。

紅い瞳が一瞬だけ強く光り、

縛られた男の体がピタリと止まった。

完璧な仕事だ。

けれどその動きの端々には、

「自分が何をしているのか、完全には理解していない」――

そんな不安が、微かに滲んでいた。

________________________________________

次に、老人の前に立つ。

その姿を見た瞬間、エリザベートの瞳が一瞬だけ揺れた。

「衰弱が進んでいますが……問題ありますか?」

「問題ない。そのまま実行してくれ」

「了解しました。命令を完遂します」

紅い瞳がゆっくりと輝きを増す。

今度は叩かない。

ただ静かに、老人の頭に手をかざした。

魔素がゆっくりと滲み、空気が冷たく変わる。

「……眠りなさい」

囁くような声。

淡い光が老人の額を包み、

やがてその体がゆっくりと力を失っていく。

「……完了、です。

 生命反応、安定しています」

報告の声に、わずかな息の乱れ。

疲労か、それとも――初めて“誰かを支配した”という事実の重さか。

彼女自身にも、まだ分かっていない。

________________________________________

「お疲れさま。……頭、なでなでしてあげようか?」

「……ありがとうございます。……マスター」

その言葉は、ほんの一拍の沈黙を挟んで出た。

形式的な感謝。

だが、どこか探るような声音だった。

(焦らずいこう)

まだ恐れている。

まだ戸惑っている。

それでも――

「名をくれた存在」にだけは、逆らえない。

________________________________________

「……次の命令は?」

「休め。魔力の消耗が見える」

「……了解。……少しだけ」

短く答え、エリザベートは壁際に下がる。

動作は人形のように正確だが、

その肩が、ほんの少しだけ上下に揺れていた。

________________________________________

彼女の紅い瞳には、まだ“感情”はない。

けれどそこに、

感情が生まれた瞬間の――空白だけは、確かにあった。

【現在のステータス】

項目内容

種別ダンジョンコア(スケルトン融合体)

ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」

ボス吸血姫エリザベート(覚醒段階:Ⅰ → Ⅱへ変化兆候)

支配対象二名(催眠安定中)

状態魔力消費軽度/休息フェーズ

備考エリザベート、初の精神支配成功。感情変化:覚醒前兆あり。



命令は、確かに届いた。

だが――静寂の中に残ったのは、勝利の音ではなく、息の震えだった。


支配という行為は、思っていたよりも静かだ。

そして、静かであるほどに重い。


彼女は“命令通りに動いた”だけ。

それなのに、俺はあの手の震えを、どこか優しいと思ってしまった。


理屈では説明できない。

それがたぶん、感情というバグの始まりだ。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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