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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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吸血姫初任務報告 ~命令系統と感情制御の交差点~

一応、蜘蛛さんたちの視界を共有して現状確認。

鉱山から宿舎までは――驚くほど近い。

鉱山を出て数分。

岩壁を背にして建つ、粗末な建物が見えてくる。

一つは看守用らしき木造の管理棟。

もう一つは、囚人たちのための――体育館のように巨大な共同宿舎。

宿舎の中は、いくつもの小部屋で区切られていた。

看守も囚人も、同じ建物で寝起きしているらしい。

結果――三十四人、全員が一つの屋根の下に詰め込まれている。

「……まるで家畜小屋だな」

俺がぼそっと呟くと、隣のエリザベートが静かに答えた。

「秩序のある檻、です。

 けれど檻の中でも、人は生きることを諦めない……厄介な生き物ですね」

「……妙にリアルな分析だな」

紅い瞳が淡く光り、無表情の奥にかすかな哀しみが見えた。

________________________________________

二人で建物を巡回し、内部構造を確認していく。

地下には倉庫。

魔道具の箱が並び、低温・定温を保つ魔法陣が青白く光っていた。

一階には食堂と厨房とシャワールーム。

火の魔道具はガスコンロのように整っており、

水の魔道具は井戸代わりに機能している。

風呂はなく、体を洗うのはシャワーのみ。

生活水準としては“最低限より少し上”。

「あれ? トイレは?」

「管理室の隣に一つ。囚人も看守も共用のようです」

「うわぁ……地味に嫌な生活だな」

俺がぼやくと、エリザベートが一瞬――小さく息を漏らした。

……笑った?

すぐに表情を戻したが、その一瞬に“人間らしさ”があった。

________________________________________

二階は居住スペース。

囚人は四人部屋、看守は二人部屋。

清潔とは言い難いが、雑然とした秩序があった。

「……逃げられないよう、構造自体が牢獄になってるな」

「はい。窓は鉄格子、出入口は一つ。

 外からも中からも、封鎖が容易な設計です」

彼女の声は冷静だが、その奥に微かな震えが混じる。

“閉じ込められる”という概念に、どこか記憶の影を感じた。

一仕事を終えた蜘蛛たちは、そのまま各個体を監視に配置。

階段がギシギシと軋む音が、静かな建物に響く。

ここまでくれば、もう大丈夫だろう。

________________________________________

二階に上がり、最初の部屋に入る。

隣でエリザベートが精神を集中させ、対象個体を見つめる。

ベッドごと胴体が縛られ、口元も塞がれて声を出せない。

(煩い個体がいたからかな。特に指示してないけど、良い仕事だ)

もう一つ気になるのは――縛られているのに普通に寝ている者が多いこと。

「……相当お疲れなんだろうな」

思わず言葉が漏れるくらいには、同情してしまう。

そんな俺の呟きも気に留めず、エリザベートは集中していた。

紅い瞳が、最初の男を射抜くように見つめる。

微かに魔素の波が揺れ――彼女が呟く。

「……この者は抵抗が強い。意志が固い」

二人目。

「こっちは……感情が鈍い。操るには向かない」

三人目。

「眠りが浅い者は……逆に危険ですね」

四人目。

「良さそうです。候補として残しておきましょう」

基準は分からないが、本人なりの“選定眼”があるらしい。

________________________________________

次の部屋へ移動。

あぁ、看守の部屋だ。

ここだけ二人部屋。

壁には革鎧、ショートソード、革兜などの装備が吊るしてある。

縄などの捕縛用具、攻撃用の魔道具もある。

(鍵かかってなかったけど……良いのか?)

――蜘蛛が開けてた!

なんて仕事ができる子たちなんだろう♪

エリザベートの見立ては「駄目」。

まあ、精神が弱い看守はこんな僻地に回されないよな。

________________________________________

その後も、ひと部屋ずつ。ひとりずつ。

まるで教師が生徒の性格を見抜くように、

彼女は静かに“観察”を続けた。

「うん。催眠で必要魔力が六人だったな。……そんなにいらない」

俺は少し考え、頷いた。

「エリザベート、今回は魔力に余裕を持って二人に絞ろう。

 焦らず、確実にいこう」

「……二人で、よろしいのですか?」

「俺の計画では、自ら俺の下僕になりたがるようにするつもりだから。

 最初に催眠をかけられる人は“ラッキー”なんだよ。

 だから二人で良い」

紅い瞳が、ほんの一瞬揺れた。

その中に、困惑と、わずかな感謝の色。

「……了解しました。

 ……ありがとうございます、マスター」

声は小さく、それでいて確かに“感情”を帯びていた。

________________________________________

「じゃあ、候補の二人はエリザベートに任せる。

 洗脳や催眠がうまくいけば、残りは時間をかけて支配していこう」

「……承知しました。

 失敗しても、次があります。そういう意味ですね?」

紅い瞳が、ほんの少しだけ強く光った。

そこには、命令ではなく――理解。

「うん。焦らずいこう」

「……了解です、マスター」

その声には、わずかな震え。

けれどその震えは、もう恐怖だけではなかった。

恐れと、少しの憧れと――ほんの少しの信頼。

________________________________________

【現在のステータス】

項目内容

種別ダンジョンコア(スケルトン融合体)

ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」

ボス吸血姫エリザベート(覚醒段階:Ⅰ)

眷属スモールスパイダー ×34(監視任務中)/蠅 ×4(休眠中)

状態潜入・監視フェーズ/洗脳準備完了

備考監視網安定中。対象者34名のうち2名を候補選出。



命令を遂行するだけの存在が、

自分の判断で呼吸し、考え、迷い、決断する。


たったそれだけの変化が、

この世界では“奇跡”と呼ばれるのかもしれない。


恐怖も、憧れも、理解も。

どれも支配の一部にすぎない。


けれど――エリザベートの声に宿った震えを、

俺は確かに、美しいと思った。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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