第2話 仕事以外の付き合い
僕が窓際に座ることになったのは、はっきりとした理由がある。
ある日、役員に言われたのだ。
「そろそろ管理職を目指してもらわないと」
そのとき、僕は正直に答えてしまった。
「すみません。僕は管理職にはなりたくありません」
一瞬、空気が凍った。
その後どうなったかは、想像に難くない。
僕の席はオフィスの片隅へ移され、雑用ばかりが回ってくるようになった。
“出世を望まない人間”には、会社にとっての価値がないのだろう。
ただ不思議なことに、そうして窓際に押し出されてから、色んな人が僕の元にやって来るようになった。
その日も、同期の一人がスタバのフラペチーノを持ってやってきた。
「なあ、お前。ちょっと聞いてくれよ」
彼は椅子を持ってきて、僕の隣に腰を下ろす。
「最近さ、飲み会とかゴルフとか断ると、露骨に機嫌悪くされるんだよな。正直、付き合いに疲れたわ」
僕は笑った。
「相変わらず、上の人たちはそういうのが好きだな」
「でもさ、付き合い悪いと仕事で損しそうだろ。案件回してもらえなくなるとか」
僕は机の上に置かれた彼のフラペチーノを指さした。
「それ、フラペチーノだろ?昔は、男が職場で飲むものはブラックコーヒーが主流だった。『甘い飲み物なんてダサい』って言う人も多かったろ?」
彼は首をかしげる。
「……何の話だよ」
「好みは時代で変わるってことさ。ブラックコーヒーを飲まなくても、今は誰もダサいなんて言わない。人付き合いだって同じだよ。必要以上に合わせる時代は、少しずつ終わっていく」
同期は笑いながらフラペチーノを飲んだ。
「今はこっちの方が女の子にモテるしな」
「モテるかどうかはさておき、無理にストレス溜めて仕事に支障をきたす方が問題だ。付き合いもほどほどにな」
彼は立ち上がり、少し肩の力を抜いた顔で席に戻っていった。
僕は窓の外を見やる。
出世には興味がない。
でも、甘い飲み物がダサくないのと、一緒で出世だけが男の華ではないのかもしれないな。




