表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/78

「雨のあと、やさしさの匂い」

午後五時すぎ。昼の熱気がまだ残るなか、突然の黒い雲が空を覆いはじめた。


「うわ、来るなこれ……」


コンビニの窓から空を見上げた遠州灘子が、ぽつりとつぶやいた。雷鳴が小さく響いたかと思うと、ほどなくして土砂降りのゲリラ雷雨が襲ってきた。


「急にすごい雨……!」


工藤遥が、カーテンのように降り注ぐ雨を見て声を上げた。小崎も、外に出ていたドリンクケースを急いで屋内に入れ、シャッターの隙間をタオルで拭いていた。


そのときだった。


「……あれ、あの子……?」


遠州が、店の前を歩くひとりの中学生の女の子に目を留めた。


制服姿の彼女は、全身びしょ濡れ。小さなバッグを抱えて、とぼとぼと歩いていた。


「ちょっと、ずぶ濡れじゃない……見過ごせないね」


遠州がすぐさま傘を持って外に出ようとすると、工藤も一緒に立ち上がる。


「私も行きます!」


雨の中、二人は駆け寄り、声をかけた。


「ねえ、あなた大丈夫?近くの子?」


「あはは……学校から帰る途中で……傘、持ってなくて」


女の子は恥ずかしそうに笑いながら目を伏せる。


「風邪ひいちゃうわよ。ちょっと中で体拭いて、服も替えよう」


「え……でも、そんな……」


「いいから、ほら!」


——コンビニのバックヤード。普段はスタッフが着替える場所に、乾いたタオルと遠州が持っていた替えのシャツ、そして工藤が貸したウィンドブレーカーが用意された。


「さ、さあ、これで……」


と工藤が言いかけたとき、小崎がタオルを抱えて中に入ってきた。


「タオルと——あ、す、すみませんっ!!」


「ちょっと小崎さん!今はいいから店戻っててください!」


工藤の怒声に小崎は素直に頭を下げ、そそくさと退室した。


——20分後。


雨は嘘のように止み、空には赤く染まった夕焼けが広がっていた。


制服の上にウィンドブレーカーを着た女子中学生は、遠州と工藤に何度も頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました……お店の人なのに、こんなにしてもらって……」


「いいのよ。通りすがりでも、困ってる人を見過ごすのは性に合わないの」


「……お姉さんたち、かっこよかったです」


その言葉に、工藤は顔を真っ赤にして「そ、そんな……」と小声で答えた。


少女は深くお辞儀をして、夕陽の差す坂道を帰っていった。


「……なんか、昔を思い出したわ」

遠州が空を見上げて呟く。


「私も、子どものころ、大雨でずぶ濡れになったとき、おばあちゃんがタオルで包んでくれたのよ」


店内には、雨上がりの空気と、ちょっとだけあたたかい余韻が残っていた。


頑張れ、灘子さん、遙ちゃん、今日も誰かの一日が、少しやさしくなったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ