表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/78

「誤解と列と、すれ違い」

夕方のピークタイム。


レジには買い物を終えた客たちが列を作り、店内はざわついていた。


瀬戸涼はレジ対応に追われながらも、丁寧な接客を心がけていた。


そんなとき——


「ちょっと、これどういうこと!? 私、さっき支払ったはずなのに、レジ通してないってどういうことなの!?」


声を荒げて現れたのは、買い物袋を提げた中年の女性。周囲の視線が一斉に集まる。


「申し訳ありません、ですがレシートを拝見しても……こちらの商品は……」


「あるって言ったじゃないの!ちゃんと聞いてたのよ、あなたが“入ってます”って!」


涼が冷静に対応しようとすればするほど、女性の語気は強まっていく。


「お客様、落ち着いてください。もしかしたら何か誤解が——」


「誤解なんかしてないわよ!」


列の後ろでは客たちが気まずそうに目を伏せ、空気が張り詰める。


瀬戸の表情にも焦りが浮かび始めていた。


「……こっちは急いでるのに!ちゃんと責任持って対応してよ!」


売り言葉に買い言葉。

一瞬、涼が口を開きかけたそのとき——


「すみません!」


割って入ったのは、小崎だった。


「こちらで一度確認いたしますので、もしよろしければ少しだけお時間を……」


「もういいわよ!こんな店、二度と来ない!」


主婦は怒りにまかせて出口のドアを乱暴に開け、そのまま去っていった。


静まり返る店内。

列の客たちが徐々にざわめきを取り戻し、何事もなかったように再びレジが動き出す。


瀬戸は、軽く頭を下げながら淡々と仕事を続けていた。


それから、ちょうど一時間後。


自動ドアがそっと開いた。


そこには、あの女性が立っていた。


「……あの」


レジの前で、小さな声が響く。


「……さっきは、ごめんなさい。私の……勘違いでした」


手には、さきほどの商品とレシート。

他店で購入したものを、うっかりこちらで買ったと思い込んでいたのだった。


「お騒がせして……ほんとにすみませんでした」


瀬戸は驚いた顔をして、それから、ふっと微笑んだ。


「大丈夫です。……来てくれて、ありがとうございます」


小崎も横から静かに頷いた。


「誰にでも、そういうことってありますから」


女性は頭を下げ、足早に店を後にした。


頑張れ、小崎くん。

言葉がぶつかっても、素直な“ごめんなさい”は、ちゃんと誰かの心をほどいていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ