「ふたたび、おばあちゃんと、ポカリと」
朝の陽射しが少し強くなりはじめたある日。
小崎がレジ横の棚を整理していると、自動ドアが開いた。
「おはよう、まさのりちゃん」
聞き覚えのある声に、小崎は振り返る。
「おはようございます、田辺さん。今日はちょっと早めですね」
「うん、朝のラジオ体操が終わってから少し寄り道してね。気持ちのいい風が吹いてたからさ」
にこにこしながら店内を歩き、小ぶりなパンと常温のポカリを手に取る。
「冷えてるのは苦手だけど、あんたの“おはよう”は毎日でも聞きたいからね」
「それなら、何度でも言わせてください」
そんなやりとりを交わしながら、レジで会計を終えた田辺スエさんは、イートインにそっと腰を下ろした。
「……実はね、この前もらったメモ帳とペン、さっそく使わせてもらったよ」
そう言って、カバンの中から一枚の便箋を取り出す。
「お返しってわけじゃないけど、私なりに考えてみたの。俳句ってやつをね」
差し出された便箋には、丁寧な字でこう書かれていた。
『あたたかし レジ越し笑顔 春の風』
小崎は言葉を失い、そしてゆっくりと頷いた。
「……すごく、うれしいです」
「ふふ。季節はもう夏になるけど、あんたの笑顔はいつだって春みたいだからさ」
それからしばらく、田辺さんはポカリを片手に、店内のゆったりとした時間を楽しんでいた。
「また明日も来るよ。ちゃんと“おはよう”って言ってね」
「もちろんです」
白い日傘が朝の光に揺れて、ゆっくりと遠ざかっていく。
頑張れ、小崎くん。
その“おはよう”は、今日も誰かの一日をやさしく照らしている。