「先生と、パンと、ちょっとだけお礼」
翌週の昼下がり。
いつものように補充をしていた小崎のもとに、落ち着いた足音が近づいてきた。
「こんにちは。お忙しいところ、すみません」
振り返ると、そこにはこの前の“悪ガキ三人組”を引き連れていった女性教師の姿があった。
「あっ、こんにちは。あのときはどうも。今日もお迎えですか?」
「いえ、今日は私ひとり。たまにはパンでも、と思って」
彼女は棚からチョココロネと牛乳を手に取る。
どこか気まずそうにしながらも、ふっと表情を緩めた。
「この前は、助かりました。あの子たち、あれ以来ちょっとだけ大人しくなったんですよ」
「そりゃあ、先生に引きずられていったら、誰だって少しはね」
ふたりで笑い合い、レジへ。
会計を終えると、彼女は小さな紙袋を取り出した。
「これ、近所のパン屋さんのクッキーです。あの子たちの“お礼がわり”にって」
「えっ、そんな……でも、ありがとうございます」
「“別に感謝してねーし!”って、言ってましたけどね」
小崎は思わず吹き出した。
「……あ、あともうひとつ」
先生は言いかけて、少し迷ったように目を伏せた。
「……小崎さん、あの子たち、ちゃんと見ててくれたんですね」
「うん。……なんか放っておけないんですよね。そういう子たち」
「私も、ちゃんと見てあげなきゃなって。……では、また来ます」
「またお待ちしてます」
静かに頭を下げて帰っていく先生の背中を、小崎はあたたかく見送った。
頑張れ、小崎くん。
その優しさは、少しずつ、ちゃんと誰かに届いている。