神鎖
魔物の回収を終えたのは夕方前だった。
先に進むと夜になる為、ここで野営し朝に出発する事になった。
翌朝、目覚めた俺達は竜の谷を進んでいた。
断崖絶壁の渓谷の先には竜種の魔物が住んでいる。
ワイバーンやレッサードラゴン等、下級竜と呼ばれる魔物からレッドドラゴン等の中級竜等が生息していて、竜種の繁殖地であり、ドラゴン族の餌場になっている。
たびたび襲って来る魔物を蹴散らしながら、俺達は渓谷を進み、竜種達が住まう広大な盆地に着いた。
空にはワイバーンやレッサードラゴン等が多数飛んでおり、地上にはグランドドラゴンやドレイク種の群れが歩き回っていた。
それを見たハゲ達は顔を青ざめ、ロゼは意気揚々としていた。
「ご主人様、これら全て狩ってよろしいので?」
ロゼが手をワキワキさせながら、今にも飛び出しそうな勢いで聞いてくる。
俺は、ロゼの手を引っ張り、飛び出しそうなロゼを引き留めるて、一本の長い鎖を渡した。
「ロゼ、これを使え。」
鎖を受け取ったロゼは、顔を引き攣らせていた。
「これは…神鎖ですよね…」
神鎖
神をも束縛する戒めの鎖。
神をも恐怖させた獣を束縛し、封じる為に作られた神具。
先端は槍の様に鋭く尖っており、1mほどの長さの聖銀の鎖。
「あぁ~これの使い方は知っているだろ?」
「はい、知識だけは御座います。」
「なら使ってみるといい。」
「しかし…」
「いざ、使う時に使え無かったら意味が無いからな。」
「畏まりました。」
ロゼは渋々ながらも神鎖を構えると「神鎖」っと唱えると、神鎖がロゼの右腕に高速で巻き付いた。
それを確認したロゼは、フーっと深呼吸して意識を集中させた。
集中力を高めたロゼは、「いきます」っと言って神鎖を開放した。
「神鎖解放」
ロゼが神鎖を開放したと同時に、ドンっと音がし世界にプレッシャーが掛かった。
空を飛んでるワイバーン達や地上にいたドラゴンやドレイク種達は一斉に空を見上げた。
ハゲ達も何事かと空を見上げると、上空には巨大な青色の魔方陣が浮かび上っていた。
神鎖を開放したロゼは、歯を食いしばり、右手を左手で支えながら耐えていた。
ロゼは今、神鎖と主従契約をしている。
神具には意思があり、神具を使う者の力量を試す。
武力・魔力・精神力と神具によって様々だが、ロゼが使っている神鎖は意思を試す。
神鎖は神を捕縛・拘束する力があり、その力は絶大な力を有している。
故に、今のロゼは、その力を振るうだけの覚悟と意思があるのかを試され、精神をゴリゴリと削られてる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
ロゼは膝をつき、右手を頭上に掲げながら獣の様な悲鳴を上げている。
目を大きく見開き大量の涙を流し、鼻からは鼻血が垂れ流れ、大きく開かれた口からは、大量の涎が出ていた。
それを見かねたハゲが、俺に大丈夫なのかと聞いてくるがどうしようも出来ない。
これはロゼの神鎖の試練で、俺達には手出しが出来ない。
出来るとすれば、アドバイスをするぐらいか。
俺はそっとロゼに近寄り、肩に手を置くと声をかけた。
「神鎖に抗うな、神鎖に身を委ねろ。」
「ガァァァァァァァ‼」
「神鎖を受け入れ意思を示せ。」
「アァァァァァァァァ‼」
「何の為に使うのか、何の為に欲するのか。」
「ガアァァァァァァァァ‼」
「その意思を強く持ち、神鎖に示せ。」
ガァァァァァァ…
アァァァァ…アァァ…アァァァ…
アァァァ…
あぁ…
ハァーハァーハァー…
獣の様に悲鳴を上げていたロゼは、徐々に声を抑えていき意識を覚醒させていく。
意識を取り戻したロゼは、両手を地面につけ四つん這いになると、ハァーハァーっと呼吸を荒げていた。
大量の汗と涙、鼻水、涎を垂らしながら呼吸を整えてるロゼの頭に、俺はそっとタオルを掛け顔を隠してやった。
しばらくして、呼吸を整え落ち着いたロゼは、タオルで顔を拭き身だしなみを整えると俺に頭を下げた。
「ご主人様、お見苦しい姿と声を聞かせてしまい申し訳ございません。」
「別に構わないさ。それより、もう大丈夫なのか?」
「はい、ご主人様のアドバイスがなければ、私は神鎖に飲み込まれていました。」
「そうか。よく頑張ったな。」
俺はそう言って、頭を下げてるロゼの頭に手を置き、優しく撫でてやった。
「ありがとう御座います。」
ロゼはお礼を言って頭を上げた。
俺はロゼに「いけそうか?」っと聞くと、ロゼは「はい」っと返事をし、右手を突き出した。
「神鎖解放」
ロゼが唱えると、上空に巨大な魔方陣が描かれた。
ロゼはそのまま続けて唱えた。
「幾何なる封縛、汝は知るだろう、深淵の鎖は解き放たれ、汝を縛る鎖となるだろう。ストラングル・デス。」
ロゼが演唱を唱え終えると、上空にあった巨大な魔方陣の下に幾千もの小さな魔方陣が出現した。
出現した小さな魔方陣は青白い輝きを帯びており、複雑な術式模様が描かれていた。
小さな魔方陣は、青白い光の点滅を何回か繰り返すと、魔方陣から大量の小さな鎖が出現し、一斉に大地に空に降り注いだ。
上空に降り注いだ鎖は次々と魔物を追いかけ捕縛し絞め殺していく。
逃げ惑うワイバーンやレッサードラゴンは、悲鳴を上げながら必死に鎖から逃れようと上空を飛び交うが、次々と鎖に捕まり巻き付かれ、鎖に絞め殺されていった。
地上に降り注いだ鎖は大地に突き刺さり、砂煙を上げ木々をなぎ倒しながら魔物を追いかけ捕縛し絞め殺していく。
地上にいた魔物も同様に逃げまとうが、上空から降り注ぐ鎖、地上に突き刺さった鎖が地面を突き破り、次々と魔物を捕縛し絞め殺していった。
上空も地上も、魔物の悲鳴で覆いつくされ、幾万の鎖が降り注ぎ大地を抉り取る光景はまさに地獄絵図だった。
しばらくして、神鎖を維持できなくなったロゼが、両手を地面につけ四つん這いになりながら、大量の汗をかき、呼吸を荒げていた。
ロゼが神鎖の繋がりを切った為、神鎖は動きを止めて、徐々に上空にある魔方陣へと引き戻されていった。
大量に放出された鎖は魔物を拘束したまま引き戻され、大量の魔物が空中に吊るし上げられた。
吊るし上げられた魔物達は、次々と魔方陣の中に吸い込まれ消えて行く。
これが神鎖の便利なところで、魔方陣に取り込まれた魔物は自分のアイテムボックスに入って来るようになっている。
今現在、ロゼのアイテムボックスには大量の魔物が取り込まれていることだろう。
ただ、神鎖は便利な反面、扱うのはかなり集中力を使う。
神鎖は認識した相手を追尾して拘束する機能を持っている。
一対一なら容易に扱えるが、大多数となるとかなりの集中力が必要とされる。
現に、ロゼは神鎖を発動させてから10秒も経たないまま神鎖との繋がりを切っっている。
便利な反面、扱うには集中力と慣れが必要なのだ。
俺はそっとロゼに、エリクサーを手渡して飲ませた。
エリクサーを飲んだロゼは、落ち着いたのか「お見苦しい姿をお見せしてすみません。」っと言って、身だしなみを整えながら立ち上がった。
俺は「ご苦労」っと労いの言葉を掛け、どうだったかとロゼに神鎖の使用感を聞いた。
「はい、ご主人様やゼロ様が容易に使っているのは知っていましたが、実際に使ってみると、こうも扱いが難しい物だとは思いませんでした。」
ロゼが率直な意見を聞かせてくれた。
とは言え、初っ端なから大量の魔物相手に使ったんだから誉めてやらないとな。
「始めて使ったにしては上出来だと思うぞ、大量の魔物相手に全滅とはいかなかったが、半数は討ち取れたんだ、誇って良い。」
「有り難う御座います。」
ロゼはお礼を言って頭を下げた。
俺はそっとロゼの頭に手を置き、頭を撫でた。
「とは言っても、まだ半数近く残っている。」
ロゼの頭から手を離すと、アイテムボックスから神鎖を取り出した。
盆地の上空には、ここから逃げ出そうと多くの魔物が飛んでいる。
俺は神鎖を構え、無数の鎖を伸ばし、飛んで逃げる魔物を捕まえていく。
捕まえた魔物を地上に叩きつけ、そのままロゼの近くまで引き寄せ解放し、また鎖を伸ばして捕まえる。
これを、ロゼに見て教えるかのように何度も繰り返し、空を飛んで逃げる魔物を捕まえて叩き堕とした。
「神鎖は目で確認できる範囲なら無駄に開放せず、こうやって自分で操作出来る数を出して操作してやればいい。」
俺が神鎖を構えて突き出してる右手の前には、5個の魔方陣が展開され、1つの魔方陣から4本の鎖が伸びている。
それを、指先、視線、手を動かして操作し、次々と魔物を叩き堕としていった。
20本の鎖は生きてるかのように動き、次々と魔物を追いかけ捕縛していく。
ロゼはそれを食い入る様に見つめ、自身も右手を突き出し神鎖を構えて5本の鎖を伸ばして、練習をはじめた。
俺達が次々と鎖を伸ばして、上空の魔物を叩き堕としている姿を、ハゲ達は互いに抱き合い、顔面を蒼白にして震えながら見ていた。
飛んで逃げようとした魔物を片付けた俺達は、ハゲ達に回収を命令し、残った地上の魔物を片付ける事にした。
「ロゼ、良いものを見せてやろう。」
俺はそう言って、神鎖を全力解放した。
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