15話、とてつもなく大きな鶏肉(3)
「妖精の言うことにわたしも賛成ですわ、せっかくロック鳥を倒して名声を得られるのですもの、変なものを食べて体調を崩したら元も子もないですわ」
「そんなに面子が重要?」
「貴族ですもの!」
「にしても気にし過ぎじゃない?」
「領民を守るためには必要なことよ!」
「お貴族様は大変なのねぇ」
「わたくしは女ですもの……」
「あーなるほどねぇ」
(クラウディアも大変なんだなぁー)
リリも会社では女性が上に立つのは大変だったのを思い出し、同情とも仲間意識ともなんとも言えない感情が湧きあがるのを感じたが、口に出すのは止めた。
「というか妖精は、燻製なんて手間のかかることしますの? 塩蔵にしたらいいじゃない?」
「妖精って呼ぶのやめてくれる? さっきみたいにリリって呼べばいいじゃない」
「それはないわ!」
「えー! わたしはそっちのが良いー、妖精って呼ばれるのはむず痒い!」
「気が向いたら呼んであげますわ」
「よろしくねっ、それとクラウディアさっき塩蔵って言った?」
「言いましたわ、魔法での燻製よりかは負担が分担できるのではなくて?」
「クラウディアは馬鹿なの? こんなおっきな塊が塩蔵できるほどの塩なんてあるわけないじゃない!!」
なぜか自信満々に言うリリに、クラウディアはサラッと答えた。
「買えばいいじゃない? カルラ・オアシスは荒原で岩塩が取れるから、他領と比べれば相場は安いわよ? ロック鳥の討伐報酬も出るのだから簡単なことではなくて?」
「うわっ、なんて貴族的発想! わ……」
(わたしついこの間この世界のお金を触ったのよ? そんな大量の塩なんてわたしに買えるわけないじゃない)
危うくまくし立てそうになったリリは、ギリギリのところで口をつぐんだ。
百面相をするリリに、クラウディアが声をかける?
「変な顔になってますけど、なにかおかしくて?」
「っい、いやっそれならお肉はクラウディアに任せるってことで、全部あげるわ」
(これで、燻製地獄から解放される~)
リリは心の中でガッツポーズをした、しかしそれを聞いて黙っていないものがいた。
もちろんラーナだ。
「えー! ボクの食べる分は? ボクも食べたーいー」
ラーナが駄々をこねるので、リリとクラウディアは目を見合わせて悩む。
しかし後ろで聞いていたクリスタが、ラーナの肩に手を置くと頷いた、そして淡々と静かに喋る。
「クリスタから一つよろしいですか?」
「なにか良い案があるの?」
「こういうのはどうでしょう? リリ様には半身を燻製にして頂き、残った半身をクラウディア様が塩蔵する、成果を平民と半々にすることで、リューネブルグ家の評判も上がり、リリ様たちも食材が手に入る、双方に得があるかと」
聞いていたクラウディアは、納得したように頷いた。
しかしリリは焦って、待ったをかける。
「ちょーーーっと、ストーーップ!!」
(半身でも十分に徹夜コースなんですけど! やりたくないんですけど!)
「両方欲しいのであれば物々交換でも大丈夫ですよ?」
リリの静止も気にせず、話を進めるクリスタ。
更に焦りリリが言い返した。
「半身は多い! 燻製にするには大きすぎるわ! 配る訳じゃないんだし、わたし達はその半分の半分でも多いと思うの」
「えー、リリ半分くれるっていうんだから貰っとこうよー」
「ラーナは少し静かにしてて!」
ラーナの言い分に焦りを隠せないリリ、それを見ていたクリスタがまたも助け舟をだす。
「リリ様、間を取り四分の一ではどうでしょう?」
「それなら……まぁ」
「では、クリスタはロック鳥を分けるために捌いてまいります、クラウディア様、よろしいでしょうか?」
「許可するわ」
「この場には十分な水もない、血抜きも冷却も十全には出来なさそうですね」
クリスタはロック鳥に軽く一礼をし、ナイフを腰から取り出すと解体を始めた。
「わたくしはエマとディアナに、連絡用の烏を飛ばしてこようかしら」
この世界の通信手段は幾つかある。
魔法でのテレパス、伝書烏、早馬などが代表的だが、中でも烏を使った通信手段は値段も高く、そもそも扱うには技術も魔法も必要なため、普通は見ることなど殆どない。
クラウディアには魔法の才能があり、リューネブルク家は元貴族、十分なお金と恵まれた才があるからこそ常用することができているのである。
一般人が見たらビックリし、白銀の姫騎士の面目躍如といったところなのだが、今回の相手はリリを含め世間に疎い三人と、情報通なギルドの受付嬢。
当たり前かのように全くの無反応であった……
(ふぅーよかったぁ、四分の一ならまぁなんとか徹夜は免れそうだわー)
心の中で安堵したリリは、気を引き締め直した。




