7話、ジャイアントスコーピオン(5)
「ヤッホー、リリよ! 今回の一口メモ!」
「今回は迷言、ことわざから」
”霞を食う”
「俗世離れした生き方のことね!」
「仙人は霞を食べて生きてたらしいわよ」
「それで生きていけたら、もう人間じゃなくない?」
「一歩間違ったら、わたし達もなりかねないのが、怖いわね」
「考えないことにしよっと!!」
「ここから本編でーす!」
「リリ、コイツを食べよう!」
「やっぱりそうなるわよね、めんどくさいー」
「おっきいから、ボクも好きなだけ食べられるし、楽しみだなぁ」
「ラーナ? 聞いてるの?」
「どんな味なんだろ? 楽しみだなぁ!」
あえての無視か、夢中で気づいていないのか。
ラーナはよだれを垂らしながら言っているので、リリはどうでも良くなって笑ってしまった。
「本当に食いしん坊さんねー」
「リリ、今回の料理の作り方を教えて! ボク、頑張るよー!」
装備の袖を外したラーナは、スパスパと鋏や尻尾を解体していく。
ラーナのやる気に当てられてリリも覚悟を決めた。
「やりますかー」
「なにをすればいい?」
「まずは毒腺を潰さないように取り出そっか」
「りょうかーい」
ラーナは少しだけ慎重に尻尾の棘を解体していく。
殻を捲ると、中心にドス黒いプルプルとした毒腺が見える、ラーナは周りの身との隙間にゆっくりと刃を入れ取り出し、瓶に詰めた。
(すごーっ!! 職人技じゃない!)
「次は、味がわからないと料理の考えようがないし、全部位を生の切り身でをちょうだい」
「生で食べるの? リリは変わり者だねぇ」
「ラーナの方こそ、モンスターを食べてる変わり者じゃない!」
「それはそうだね!」
(わたしは生肉への抵抗は少ない方だとは思うけど、モンスターを常食しているラーナに変わり者って言われると、少しだけへこむわね)
「じゃあ人のことは言えないじゃない!」
「変わり者同士ってことだねっ!」
ニカッと笑ったラーナは、木のお皿の上にリリの分と自分の分の切り身を並べる。
(やっぱり優しい子なんだよなぁ、わたしのことを変わり者と言いながらも、しっかりと自分の分も用意してるし)
ラーナの気遣いに晴れやかな気持ちになりつつも、リリは切り分けてもらった身を口に運ぶ。
まずはハサミ、そして棘の身からだ。
歯を弾き返さんばかりの噛み応え、繊維を噛み切る度に、プチプチと気持ちのいい音が鳴る。
味は部位によって違うらしいがそれぞれ味が濃く、生でもとても美味しい。
「んー、美味しいじゃない! プリップリー!」
一応、殻も齧ってみたが、鉄のようでとても硬く歯が立つ気配すらない。
(ハサミも尻尾の棘はロブスターの味に近いわね)
「このピリッとしているってことは、もしかして毒があるんじゃ……」
棘の身を食べながらラーナに聞く。
「大丈夫じゃない? 毒消しでニンニクも食べる?」
「効くの!?」
「多分ね!」
「……危なそうだったら食べるわ!」
リリは若干の不安を感じながらも、体調に変化はないので気にしないことにした。
次に、棘を除いた尻尾を食べる。
こちらも棘のようにプリッとしているのかと思ったが、ねっとりと甘い。
(ロブスターというより、甘海老に近いわね)
「棘と尻尾で味が違うのね」
「ホントだ! 毒がないからかな?」
「毒、無いの?」
「リリ知らないのー?」
ニヤニヤとリリに詰め寄るラーナ。
(ここぞとばかりにからかってきてるわねー)
「サソリはねー、先っぽの棘にしか毒が無いんだよ?」
「へぇそうなんだぁー! ラーナは物知りね!」
「エへへッ」
はにかむラーナを、可愛いなぁと見守るリリ。
リリは腕肉と足肉も口に運ぶことにした。
ハサミと同じようにプリプリとはしているが、比べてみると若干硬い。
歯に逆らう感じが心地よく、噛み切っているという実感がする。
(味はカニじゃない! タラバガニそっくり!)
「全部、味が違うわ」
「不思議だねぇ」
「ねぇー」
二人はにこやかに顔を見合わせる、そのままキャッキャと味見を進めていく。
次は胴体部分だ。
「なんかトロトロだね」
殻の上部を剥いだ胴体は、内臓は恐らく下部にあるので見当たらないが、繊維が横に細かくカニでいうガニ(エラ)の様な形をしている。
その繊維を満たすように、トロトロとした緑色の液体が詰まっている。
(これは血液? 不思議な見た目ね)
「コレ……食べるの?」
「ここまで来て、逆に食べないの?」
「はぁー、そうよねー」
答えたリリの目は虚ろで、視線は夕日に染まりかけた空を見つめていた。
ここまで来て食べないわけにもいかないので、あむっ! っと勢いよく口に運ぶ。
噛むというよりかは舐るといった表現のが正しい、口いっぱいにトロトロとした液体が広がる。
「……あ、甘い!!」
「っえ? ホントに?」
「まじまじ、ラーナも早く食べてみなさいよ! ほっぺた落ちるわよ!」
「う、うん……」
ラーナも意を決したのか、口に運んだ。
「どう? 甘いでしょ?」
「あまーーーい!! ボクこんなに甘いもの初めて食べたよ!!」
ラーナは弾ける様な笑顔で叫ぶ、クリクリした目がキラキラと輝いている。
(すっごいびっくりしたけど、胴体は蜂の巣みたいね。スポンジのような肉体に、甘ーいトロトロの体液、もう蜂の巣としか言いようがないわ! いきなり甘味が見つかるなんて、ラーナに感謝ね!)
「今度、これを使ってあまーいお菓子が食べたいわね!」
「リリはお菓子も作れるの?」
「簡単なものならねー」
「楽しみー」
ラーナは明るく言うと、ルンルン気分で焚き火に向かう、リリは改めて一つ一つをゆっくりと吟味しては、感嘆の声を漏らし食べる。
(ラーナはなにをしているのかなっ?)
興味本位でリリは視線をラーナはに向けた。
彼女は焚き火でジャイアントスコーピオンの足を焼き、ボリッボリッと食べていた。
そして齧りながら「きっついお酒が飲みたくなるなぁ」と見た目に合わないことを呟きながら、次の足を焼いていた。
(あの子、少女の皮を被ったおっさんだわー)
リリは気持ちを出かかった言葉を飲み込み質問をする。
「ラーナ手際がいいわね、旅人さんってみんなこんな感じなの?」
「ガリッ! ガリッ! さぁ? 見たことない、しわっかんない!」
「そ、そう……」
(気づいたら焚き火ができていて、自分用に足を焼いて食べているって……しかも殻ごと)
「あの〜ラーナさん?」
「なに?」
「ジャイアントスコーピオンの足って結構硬かったわよね? わたしの気のせい?」
「そう? 少し硬いけど、食べられないってことはないよ?」
「相変わらずの顎と歯ね」
(わたしじゃ、歯も立たなかったんだけど……)
「リリはピクシーだしねー、そりゃ違うでしょー」
「そ、そっか……」
(楽しそうに食べているラーナを邪魔するのは憚られるけど、そろそろ始めよう……かな)
リリは今回のメニューの希望を聞く。
「ラーナはどんなものが食べたい?」
「そうだねぇ、期待が膨らむねぇ」
「ジャイアントスコーピオンはどの部位も美味しかったしねー」
ラーナの肩に座るリリ、実はこの場所がお気に入りなのだった。
慣れて来たのか、ラーナも気にせず首を傾げる。
「そうだねぇー……」
「何でもいいわよ?」
「じゃあ、食べたことがないものがいい!」
「ラーナが食べたことないもの?」
(食べたことないものってなんだろ?)
「うん!!」
元気いっぱいにラーナが答えた!
「んー例えば、焚き火で焼いたり鍋で煮たり以外って事?」
「そうそう! リリー分かってるー!」
リリを指でつつくラーナの態度から、テンションが上がっているのが良く分かる。
「ツンツンしないで! ラーナの指って大きいから大変なのよ!」
両手で抑えるリリ、ラーナはふと思い出した様に指を止め答える。
「っあ、でも生で食べるのは無しね、ボクには合わないかなぁ」
「っええ、なんで?」
(なんとなくのイメージだけど、鬼族は生肉とか好きそうなのになぁ)
「料理って感じがしない!」
「あーなるほど、納得したわ!」
(それじゃあやるかー、今回は美味しくなりそうだし気合入れなくちゃ!!)
リリは心の中の想像でエプロンを締め気合を入れる
「ヤッホー、ラーナだよー!」
「ヤッホー、リリよ!」
「ラーナ、美味しかったわねー」
「生で食べるとか、獣みたいだったけどね」
「ラーナには言われたくないわ!」
「普通は焼いたり煮るでしょー」
「まぁ、それが普通よねー、サソリって同じ味するの?」
「んーん、全然違う!!」
「次回『ジャイアントスコーピオン』その6」
「ボクは理不尽なんかに負けない!」
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