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異世界キャンプ ~チートはなくても美味しいものがあれば充分です~  作者: 綾川 鈴鹿
《カプト地方、砂漠編》一章、死の荒原
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5話、二人の旅立ち(2)

「ヤッホー、リリよ! 今回の一口メモ!」


「今回の名言はオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイク」



『美しい言葉が飢えた胃袋をなだめた例はない』



「そりゃそうよねー!」

「お腹空いてるときに、優し言葉をかけられても」

「『知るか!』ってぜーったい、わたしも思う!!」



「ここから本編でーす!」

「小さいときはそんなに強くなかったんでしょ?」

「そりゃそうだよ、最初は特に大変だった」

「食べ物とか大丈夫だったの?」

「残飯を漁ったり、畑から盗んだりしてた」

「っえ?」


(そりゃそうよね……わたしには、ダメだなんて言えないわ)


 思わず反応はしたが、掛ける言葉など見つかるはずもない。

 リリは、ただただラーナの話しを聞くしかなかった。


「でもママの日記に『レンジャーだった、ゴブリンのこの人を頼りなさい』って書いてあったから、少したってからはそこに住まわせてもらってた」


(よかった、やっと出てきた、いい人!)


 初めて出てきた両親以外のラーナの頼れる人物。

 リリは「よかった」とホッと肩を撫でおろした。


「その人! その人は、優しくしてくれたんじゃないの!?」


 思わず早口でまくし立ててしまうリリ。


「師匠かー、戦い方は教えてくれたし最低限のご飯はくれたけど……優しくはなかったかなぁ?」

「っえ? そうなの?」


 空を見上げ「優しくはなかったかなぁ」と言うラーナの表情は先程よりも柔らかくなっている様にリリには見えた、なので本当は優しかったのではないかと勘繰る、しかしその後に続くラーナの言葉は想像していた物とは大きく離れていた。


「ハイ・オークのレンジャーを一回育てて見たかったんだってさー」

「そんな身も蓋もないっ!」

「フフフッ、確かにそうだね!」

「笑い事じゃあ、ないでしょー!」


 ラーナは辛いことも悲しい事も明るく話すので分かりづらいが、リリは態度では怒りながらも、きっと言葉では表せないような信頼関係が、そこにはあるのだろうと感じた。


「まぁ無愛想で厳しい人だったからねー」

「そう聞くと、優しくはなさそうに聞こえるわね」

「でしょ? 戦闘訓練だけじゃなくて武器や毒の知識みたいな学問から、食事制限もしてたからっ、ほんっとーに大変だった、泣いても逃げても許してくれないの」


 泣いても、逃げても、というのは決して大げさではない。

 今までの鬼族の風習を聞いたリリには、むしろ控えめに言っているのだろうと思える。


「師匠、厳しすぎない?」

「おかげでこうしていま生きてるんだから、感謝しかないよ」


(酷い境遇な割にラーナさんが前向きなのは、師匠さんのおかげなのかな? 優しい人ではなさそうだけど)


「何歳から訓練してたの?」

「集落を出て一、二年後だから……」

「五、六歳ぐらい?」

「生きるのに必死だったし、正確な時期はよく覚えてないなぁ」


 考える様に上を向くラーナ。


「若すぎない? まだ子供も子供じゃない!」

「まぁね!」

「まぁねって!」

「でもその時から少しづつ毒を食べてたから、ボクは今でも毒や呪いや痛みに耐性があるんだよ?」


 リリは毒耐性が異世界特有の<スキル>だと勘違いしていた。

 それもそうだろう、前世で見ていたファンタジーはご都合主義も含めて特殊ともいえる能力をみんな持っていた。

 この世界にも魔法があるのだから<スキル>だってあるのは当然だと、リリが思っていても当然だろう。


(っ!! 毒耐性は死に物狂いで手に入れた<技術>だったの!?)


「過酷すぎじゃ、ない?」

「こういうのは、早ければ早いほどいいんだってさ」

「そうだとしてもよ……」


 あっけらかんと答えるラーナ。

 対してリリは、目にいっぱいの涙を溜めてラーナを見上げる、しかし何を言っていいのか分らずそっと頬を抱きしめた。


(サソリから助けてくれた時「致死量さえ超えなければ」って言ってたわね、気づかなくてごめんね)


「ど、どうしたのリリ?」

「ううん、なんでもないわ」


 ラーナの境遇や周りの態度、色々なものにリリの頭では、良くわからない感情が頭の中でグルグルと渦巻いていた。

 しかも当のラーナはこの態度である、だからこそ余計にやり場のない気持ちが積み重なる。


「まぁ安心してよ、師匠は最低限の会話しかしてくれない、朴念仁で怖い人だったけど、おかげでボクは強いよー、そこら辺の賊になんてボクは負けないんだから」


 右手で握りこぶしを作るラーナ、リリに気を使っているのだろう。


「なるほどねぇ」


 落ちそうな涙を拭いリリは答えた、それにラーナは茶化して答える。


「リリ信じてないでしょ?」

「いやいや信じてるわよ? わたしが戦わないから実感がないってだけ」

「あーそれもそっか、戦うの楽しいのにもったいないなぁ」

「いやいや、それはラーナさんだけでしょ?」

「そうかなぁ?」


 リリは、突きつけられたラーナの過去という現実。

 自分がラーナの事が一切見えていなかったという事実にファンタジーを夢見ていただけの馬鹿者だとをいう事を直視したとたんに、後悔の念に押しつぶされそうになる。

 しかしできる限り明るく答えるしか出来ることがなかった。


「じゃあラーナさんは生き抜く自信と、ママさんの日記があったから大陸に来たの……ね」


 リリは笑顔でそう言ったつもりだったのだが、知らず知らずに目から零れてきた涙に気づき、慌てて腕で拭った。


「……っ……まぁね、戦争や復讐よりママの日記を追う方が楽しそうでしょ?」


 ラーナは一瞬ギョッとした表情をしたが、リリの涙には触れないまま話しを続けた。


「そりゃそうよー、わたし戦争きらーい」

「ボクも嫌ーい、パパとママを戦争に出した鬼族も、ルベルンダって国も」

「嫌いでいいわよ! そんなもの!」

「なんとか好きになろうとは思ったんだけどねぇ」


(ラーナさんは、全てを乗り越えてきてるからなのか、わたしより大人びてるわね)


「そう割り切れるものじゃないわよね!」

「ねぇ! っあ、でも戦いも狩りも好きだよ!」

「そこは、鬼族!!」


 今までの中で一番ぐらいのテンションで答えるラーナ。

 その姿に呆れるリリの目からは、ようやく涙は止まったようだった。


(鬼族って怖いわー、戦闘民族を自称するだけのことはあるわね)


 リリは畏怖にも近い尊敬の念を抱く、ここまでくるといっそ清々しいぐらいだと思う。


「でも聞いてよリリ!」

「な、何をですか?」


(急に大きな声出すからビックリして敬語になっちゃった、テヘッ)


 脳内で自分自身に言い訳をするリリは酷く滑稽だった。


「この日記はねー、ボクが楽しめるようにって、役に立つことが書いてあるんだよー」

「役に立つことって?」


 笑顔で説明をするラーナに、リリは小首をかしげて答える。


「何が美味しいとかこの景色がキレイとか、ここに言ったらこの友人を訪ねなさいとか」

「素敵な内容ね、わたしも興味があるわ」

「師匠のことだって『強ければ旅も楽になるから頑張りなさい』って書いてあったからボク頑張ったの」


 自慢気に、そして誇らしげに言うラーナは先程とは違って年相応の少女に見える。


「うんうん、だから頑張れたのね」

「そうなんだよ! 16年以上は前だから、書いてあること結構間違ってて、そこは困るんだけどね……」


 困ると言ったラーナだったが、両手で日記をとても大事そうに抱え、微かに俯く。


(あぁ……ラーナさんは両親を、両親はラーナさんを、本当に本当に好きだったのね)


 ラーナの両親は居なくなった後に娘や集落、そしてルベルンダという国がどうなるのかを分かっていたのだろう。

 だからこそ宝物である一人娘に、日記という形で生き残るすべを残していた。


「これは道標だったのね」

「道標? どういうこと?」

「ううん大丈夫、なんでもないわ」


(わたしの両親も色々と考えてくれてたのかな? 無愛想な方達だったけど……)


 過去を思い出し、少し辛そうな顔をしたリリに「まっいっか」と呟いたラーナは、静かに声をかける。


「ヤッホー、ラーナだよー!」

「ヤッホー、リリよ!」


「リリ? どうしたの?」

「この世界ってスキルとか無いの?」

「ナイショ!」

「えー!? なんで?」

「またメタいって言うじゃんかー」

「それは言うわ!!」



「「次回『二人の旅立ち』その3」」


「異世界って理不尽だわー」



明日からは、1日1話投稿です!

13:30、もしくは21:30にアップする予定ですが

前後する可能性があるのでご了承ください。

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