三話、革鎧(2)
「ヤッホー、リリよ! 今回の一口メモ!」
「今回の格言はアイルランドの劇作家 バーナード・ショーから」
『食物に対する愛より、誠実な愛はない』
「率直に言えば……」
「賛否両論がありそう!」
「まぁ、時代性とかいろいろとあるわよねー」
「わたしは食べるの好きだし、分からなくはないけど」
「いまこんなツイートなんかしたら」
「もっと好きなもの沢山ある! 誠実に愛してるものがある!」
「そんな風に怒られちゃうかもね、フフッ」
「ここから本編でーす!」
その時!! 耳をつんざく奇声と、ガンッと大きな金属音が響く。
キエェエエエェー!
目の前から響く聞くのに堪えない音。
対してリリは声どころか息も止まる、本当に恐怖を覚えたときは、声など上がらないらしい。
(んんーーー!!)
目をつぶっているので、何が起こったのかは分からない。
しかし音から察するに、何かが起こったのは確かだ、直ぐにでも確認をしたいが、恐怖で瞼が上がってくれない。
(コワイ、コワイ、コワイ、コワイ)
リリは身動ぎ一つせず心と頭が落ち着くのを待ってから、恐る恐る目を開けた。
「……………ヒィィッ!?」
悲鳴を上げたリリの目の前ではサソリが暴れていた、落ち着けたはずの心臓は高鳴り、頭はまた暴走を始める。
(ぢがいぃー、近いよぉー、だから近いってば!!)
暴れるサソリの、ハサミと尻尾がリリの鼻先をかすめる。
その度に、足元に生じる震えが背骨を伝い頭のてっぺんまで震えさせる。
背筋が凍るとは正にこの事を言うのだろう。
「近づいて、こ、こ、こない……なんで?」
激しく動くサソリだが、その場で腕と尻尾を振っているのみで、近づいても離れてもいかない、よく見るとおっきな針が二本見える。
(串刺しにされて、る?)
現状がわかり、少しだけ落ち着いたリリ。
目の前のサソリはまだ、キシャア、キシャアと鳴きながら暴れているので、安心はできない。
頭上から聞こえる声は緊迫感どころか、むしろ笑うのをこらえているみたいだ。
「リ、リリ、大丈夫?」
「っえ、えーっと、っあ、っはい……た、多分……」
ドギマギと答えるリリに、ラーナはついにこらえきれず、ケラケラと笑いだした。
何事も無かったかのように話しかけられたリリは、ラーナの姿に呆気に取られてしまったのか、ぼんやりと立ち尽くす。
「た、た、ただのサソリに、慌てすぎ、だよー」
ラーナはまだ笑いながらもサソリをつまみ上げ、観察をするとっあ! っと声を上げた。
「っあ! この子、毒持ち! 当たりじゃん、やったねー」
混乱した頭、いやっ恐らくは冷静な時であってもリリにはラーナの言っている意味が分からなかったであろう。
毒があることを喜ぶ少女がそこにいた。
(毒まであったの? っえ? つえ? えぇえ!?)
リリは慌てふためき、自分の身体を隅々まで確認する。
横でラーナはサソリの尻尾の先だけをポキッと折り、マントの中から出した瓶に入れていた。
(傷はない、よかったぁーー、あのサソリ、毒があるならあるって言っと言ってよね!)
一通り確認したリリは、良く分からないキレ方をしていた。
「っあ、ありがとうございます」
「全然いいよー、気にしないで」
「ところで当たりって、どういう事?」
「このサソリはね、全身食べられるんだよ」
「えぇ!! あんなでっかいサソリを!? あり得なくない?」
ビックリしたリリは大声で聞く。
対してラーナは相変わらずの緩さで答える。
「リリには、おっきく見えるかもね」
「見えたわよ! 生きた心地がしなかったわ!」
「飛べばよかったのに」
「飛べなかったの! しょうがないじゃない! ちなみにラーナさん原因って分かる?」
疑問を呈したリリに、ラーナはあっさりと答えた。
「さぁ? 知らなーい」
「っま、そりゃそうよね」
「まぁ怪我も無さそうだし、そのうち飛べるんじゃない?」
「それもそっかー」
二人ともリリが飛べないことについては、大して気にしていない。
実にあっさりとした対応だ。
「少しだけど食べ物も見つかったし、結果としては良かったわ」
「うん、リリはすごいねー、尻尾の毒は美味しいし、ラッキーだよ」
「っえ!? 毒を食べるの? わたしがラッキーガールなのは認めるけど、厳しくない?」
(ご飯の無いこの状況じゃ、ラッキーと言えばそうなの……かな?)
「食べるよー、ボクっていろいろな毒の耐性を持ってるからね」
「……えぇえ!」
(毒耐性のスキル? そんなものがあるの? わたしもほーしーいー!)
「致死量にさえ気をつければ、大抵の毒は食べられるよ? サソリの毒は唐辛子みたいにピリピリしてて美味しいんだよねー、リリもどう?」
「イヤ、ケッコウデス……」
(純粋な目でそう言われると、少しは食べてみたいという気分になってしま……ならないわね、全く! 一切! 全然!)
スキルや特殊能力的なものの断片を見つけ、リリは興味を覚えたが、ラーナもう一つ、聞き捨てならないことを言っている。
(ちょっと待って? 毒と薬は紙一重とも言うけど……ラーナさんの言うことがこの世界のスタンダードだとしたら)
リリはラーナに恐る恐る聞いた。
「ちなみに、ラーナさんは普段の料理の調味料とか、薬とかはどうしてるの?」
「調味料? 味のことだよね、塩とかハーブとかかな? 薬は高いから自力で治す」
(自力ってなかなかハードね……猛者だわ)
「もしかして、ハーブの中には毒物も含まれてたりする?」
「リリは面白いことを言うね」
「でっしょー!」
「そんなわけ無いじゃん!」
「っあ、やっぱりそうですか」
ケラケラと笑いながら答えるラーナに、リリは調味料が普通な事に少しホッとした。
(毒が入っている料理……想像するだけで怖いわ)
「使わないのね、良かったわ」
「毒は薬にもなるし暗殺にも使えるから高いんだよ? だから、タダで捕まえられてラッキー!」
「そう……」
「たくさんあったら、料理に使ってもいいけどねー」
「っえ……あ、っね!」
ラーナの返答一つ一つがリリの斜め上を行く。
当り前であるかのように言うので、唖然として言い返すことが出来なかった。
(お金があったら、毒を調味料に使うのね……やっぱり猛者だわ)
「ちなみに、ラーナさんはどんな調味料を持ち歩いてるんですか?」
「長持ちして匂いが強いものかなぁ? あとは辛いの!」
「へぇー、見てもいい?」
(異世界の調味料は興味あるわ、何が出てくるんだろ?)
「リリ、助かって良かったねー」
「ラーナ! あーりーがーどーゔー!」
「そんなに泣かなくても」
「だっでー、だっでー!」
(あぁ、これはリリはダメだ)
「それじゃ、今回はボクだけで!」
「次回『革鎧』その3」
「ボクは理不尽なんかに負けない!」
一週間26日までは3話投稿する予定です。
7:30、13:30、21:30の予定ですが、前後する可能性があるのでご了承ください。




