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クララは部屋に戻ると制服のウエストポーチの中身を確認した。やはり、水に一度浸かってしまったペンやメモ帳は乾かしてもらっても書き心地が違ってしまっている。
また新しいメモ帳を買わないと、と思いながらウエストポーチの中に手紙を書くとき用のペンを入れ替えておく。紙も便箋を小さく切って数枚入れた。
妖精パンダは「少し寝ろ」と言っていた。寝れば今一つ晴れない心境もどうにかなるだろうか。三つ編みにしている髪を解いてベッドに潜り込むと、布団の暖かさが水の冷たさと正反対で、少し落ち着いた。目覚ましを普段の仕事終わりの時間に合わせてクララは目を瞑る。
精霊の庭ではケーティがとにかく怒鳴っていた。
「あのちっさい蛇野郎! あたしを攻撃したの! どこの眷属よ! 誰か知らない!?」
「パンダはちがうわね」
「パンダもちがうわね」
「パンダにはわからないわ……あっ、『お茶会場』のパンダに情報アリ!」
「教えなさい!」
「カナリアが水龍王を捕まえたらしいわ!」
「げしゅにんは水龍王?」
「最近、生まれたばかりの水龍王の眷属が見当たらないそうよ」
「その眷属、頭が割れる? 二股にも三股にもなったわ!」
「とにかくお茶会場に行ってみましょうケーティ」
「それもそうね」
パンダたちは輪になって踊る。フェアリーサークルを作ってお茶会場への道を開いた。その輪の中心にケーティは入り、お茶会場へ移動するのであった。
目覚ましが鳴ってクララは目を覚ました。特に夢を見る事も無く、なんだかスッキリ目覚めた。
眠る前のモヤモヤ感も無い。寝て良かった。パンダありがとう。
顔を洗って髪をすいて服が皺になってないか確認してから自室を出て一階に降りる。
「ミチルさん、そろそろ皆さん帰ってきますか?」
「そうねぇ、そろそろだと思うけど……クララちゃん先にシャワー使っちゃう?」
ミチルのその言葉にクララは「うわ」、と思ってしまった。個室、一人、水場、今日のクララには中々難易度が高い。
「あの、なんだかシャワー怖いかもしれません」
「あらぁ……そうよねぇ……んー、とりあえずコレ使って」
ミチルは台所の引き出しから何やら取り出す。はい、とクララに渡されたものは精霊避けの小さな黒い鉛がついた首飾りだ。
「もっとデザインの良いものがあればいいんだけど、今日はこれで我慢してね」
なるほど、精霊避けを装着したままシャワーを浴びればいいのか、クララは頷きながら「ありがとうございます!」、とミチルに礼を言った。
「一人が不安なら、お風呂屋さんに行くのはどうかしら? みんなと居れば少しは怖くないかも」
お風呂屋さん、と聞いてクララの目が輝いた。
「お風呂屋さん、あるんですか!?」
「ちょっと歩くけどあるわよぉ」
「行きたいです!」
実家に居た時は気分次第で湯船は使っていたが、谷の都に来てからはシャワーだけだった。風呂にゆっくり浸かりたい。
「脚伸ばせますか?」
「大きいお風呂がいっぱいよぉ」
目をキラキラさせるクララにミチルは笑顔で「帰ってきたみんなを誘って連れて行ってもらいましょうか」、と提案した。




