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アッディルが乾燥魔法でクララとアンジェリカを乾かしてやり、段々とクララも落ち着いてきた。
「あー、濡れてないって素晴らしい……」
「本当に、本当にごめんなさい、クララ」
「あ、大丈夫です、生きてるんで」
「それは、アッディル先輩にお礼を言って……」
アッディルは蛇の妖精に咬まれたところをタオルで押さえながら伝令魔法で鳥を作っていた。
「精霊士長に報告と、医療魔法使える奴にも連絡するぞ」
「エルシアって雑用係にも連絡取れる?」
ライトミィがアッディルに尋ねる。仕事中のトラブルだ、リーダーのエルシアと雑用係の統括をしているワトゥールに連絡しなくては。
「うーん、悪いけど顔がはっきり判らないと場所も魔力も辿りにくいな……」
「なら、大丈夫、もう少しクララが落ち着いたら私が直接報告に行くから。医療魔法でクララも診てもらえる?」
「そこは大丈夫だろ、診ろと言われて断る奴じゃない」
ざばり、と水から上がる音。
プールを見れば空気に包まれたマディが宙に浮いていた。
「ばあちゃん!」
アッディルが声を出す。
「アッディル先輩、マディさんのお孫さんなの」
アンジェリカがクララにそっと教えてくれた。
宙に浮いたマディの手に黒いモヤが集まる。
「ソフィア!準備はいいよ!」
マディが明るくなっている水の中に声を張れば、水中にいる黒く長い影がどんどんと水面に近づいてくる。力強く水から飛び出してきたのは大きな海蛇に下半身を変身させたソフィアだった。長く伸びた腕の先は手指ではなく五本の刃に変わっており、クララを水に引き摺り込んだ蛇の妖精が貫かれてる。
「はいっ!」
ソフィアが刃と化した手指をマディの方向に向かって伸ばす。集まった黒いモヤが蛇の妖精に絡みついたところでソフィアは刃を抜いて腕を元の長さに戻していく。
黒いモヤは蛇の妖精を拘束し、固まっていくと黒曜石のような輝きと無骨さをもっていった。
マディは拘束した蛇の妖精を水に戻さず、交信室の床に置き、自身も床に足をつける。
ぱちん、と自分を包んでいた空気を解いてマディはアッディルを見た。
「おお、ちゃんと人助けできてアッディルは偉いねぇ」
「ばあちゃんも格好良かったぜ!、で、そいつなに?」
そいつ、と蛇の妖精を指差すも、マディは首を横に振る。
「あたしも見たこと無い子なんだよ。水中でソフィアと喧嘩してたから動けないようにしたのさ」
「私はアッディルが咬まれてるのが見えたのでちょっと刺したら妖精のケーティが『ボコボコにして』と言うので更に刺しました」
なんだか怖い事を言っているソフィアも水から上がってきた。下半身はタイトスカートだ。肩に小さな人魚妖精のケーティを載せている。
「そいつ、水の妖精みたいだけど見たことないし、言葉も不明瞭なのよ!」
ケーティは蛇の妖精を指差して騒ぐ。
「ケーティ、この妖精のことを知らせに精霊の庭に一度報告に行ってもらってもいいですか?」
ソフィアは柔らかな表情でケーティを撫でながらそう言った。ケーティは頷く。
「それもそうね!アンジェリカ、今日は帰るわ!クララ、元気出してね!」
そう言うと、ケーティは水の表面に円を描いてその中に入っていった。
クララには目の前で何が起きているかさっぱりわからない。
「アンジェリカさん、何が何だか」
「えーと、精霊の庭、ってのは精霊と妖精の世界よ。色々と精霊を取りまとめる立場の精霊も居たりするから、そういう存在にこの蛇の事を聞きにいったんだと思う」
「精霊にも中間管理職みたいな存在が…?」
「言い方」
クララはすっかり元気を取り戻してきたようだ。ライトミィはクララに声をかける。
「クララ、一度今の事をエルシアリーダーに報告に行ってくるわ、ちゃんと迎えに来るから待ってて」
「はい!」
元気な返事にライトミィは安心して水の交信室をでて行った。




