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昼は過ぎた。腹は膨れた。アンジェリカはこれ以上なにをしたらいいのかわからなかった。
このままではクララとは「じゃ、今日はこの辺でー」、みたいな流れになってしまう。
オレンジジュースをちびちび飲みながらどうしよう、どうしよう、と悩んでいると妖精パンダがやってきた。
「二人とも、こんにちわなのよ」
「あ、パンダ」
「次はどこにいくのかしら?」
「特に決めてないよ」
クララがパンダと話している。そうだ、次は何も予定してないのだ。パンダ、パンダ、どうしたらいい。アンジェリカは祈るようにパンダを見た。
「なら、次は本屋さんね」
「本屋さん?図書館でもいいのに?」
「本屋さんにはさいしんのりゅうこうがあるのよ、たまには見るといいわ。それにね、としょかんはおしゃべりできないのよ」
「そっかー」
よし!、とアンジェリカは心の中でパンダを持ち上げて高い高いをした。紙吹雪も舞っている。心の中で。
アンジェリカの案内で大きな本屋に来た二人は何を見ようか、とふらふらしていた。
アンジェリカが見たいのは最新のファッション誌だ。クララが読みたいのはグルメ探訪である。
「アンジェリカさん、二手に分かれますか?」
「え!?いいわよ、私は家に帰れば家族が買ってたりするから、クララの読みたいものを見ましょう!」
二手に分かれたらひとりぼっちではないか、クララとお出かけしてるのにそれは嫌だ!、とアンジェリカは実際にありそうな理由を盾にクララと一緒に本屋を回ることにした。
「じゃあ、あっちの本棚から見てみましょう」
物珍しさに何もかも見てみたいクララは本棚を一番上の段から一番下の段まで見つめながらゆったりと歩く。そんなクララはどんな本に興味を持つのか、アンジェリカは気になりながら後を着いていく。
「あ、ストーン・リリーだ」
クララが手に取ったのは「ストーン・リリーの食べた献立」という本だ。絵本のストーン・リリーシリーズに出てくる食事シーンのメニューを再現した献立本らしい。
「アナタ、ストーン・リリー好きなの?」
「うちの集落にもあった数少ない絵本なんですよ。昨日、図書館でも小説を読みましたが、やっぱりストーンが大暴れするとスカッとしますね」
「ふーん、私はいつも従者にイライラしちゃう。いい人なんだけど、ストーンに助けられてばかりで」
献立本をパラパラとめくるも、材料が多い。こんな色々と必要なメニューを旅するストーンと従者は食べていたのだろうか。
「これ、再現しつつ美味しくしなきゃいけないから上級者向けの本ね」
「なるほど」
確かに美味しいメニューでなければ人は本をかわないな、クララは納得して献立本を棚に戻した。
「アンジェリカさんは、絵本とか何を読んでました?」
再び本棚を眺めながらクララはそう口にした。
「私はストーン・リリーも読んでたけど、『騎士キャット』シリーズも好きだったわ」
「読んだことないです。読んでみたいのですが、児童書コーナーでしょうか?」
何となく、自分が好きなものに誰かが興味を持ってくれるのは嬉しいな、とアンジェリカは感じながら児童書コーナーで「騎士キャット」の置き場に来た。
「私が読んでた時より続刊も出てるわ」
「絵本も小説もあるんですね、イラストが可愛いです」
「そうなの、騎士キャットシリーズはイラストが凄い可愛いの。お姫様が出てくるんだけど、いつもドレスが違っていて可愛いのよ」
騎士の猫獣人、キャットが着ている服も大変格好いい。あらすじを読むとキャットが猫王国に迫る悪の組織を退治していく話とのことだ。
本の小口を見てイラストページらしい場所の多い本を選ぶ。
「これにします」
「私も読んだことないやつだわ」
「読み終わったら貸しますね」
「いいの?」
「はい!」
なんだか友達みたいなやり取りだ!、とアンジェリカは嬉しくなる。それなら、自分からもクララに本を貸せば、やり取りは続くのではないだろうか?
「騎士キャットが気に入ったら、シリーズの一作目から八作目までは持ってるから貸すわ」
「ありがとうございます!」
まだ恥ずかしくて「友達になって」、とは言えないが、アンジェリカは楽しくて楽しくて仕方なかった。




