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カフェまでは町に詳しいアンジェリカが道沿いにある色々な店や公園、施設の説明をしていたらあっという間に着いてしまった。
「あら、ここなの?店名教えてくれたら私が案内できたのに」
看板に「ドン・カルチェ」、と書かれたカフェを前にアンジェリカがクララに言う。
「来たことある感じですか?」
「逆よ、昔からあるけど入ったこと無いから憶えてたの」
それなら一緒に初来店を楽しめる!、とクララはときめきながらドン・カルチェの扉を開けた。
ウェイトレスに窓際席に案内された二人は店内の内装を見る。
あちこちにビーズの飾りが掛かっていてキラキラとして綺麗だ。テーブルクロスは真っ白。小ぶりなシャンデリアのビーズは大きめで昼なのに光っている。
クララはふわー、と小さな声で感嘆し、アンジェリカはウェイトレスの糊のきいたエプロンを見て心の中で「当たりの店かもしれない」、と感じる。
「メニュー見ましょう」
いつまでも天井のシャンデリアを眺めていそうなクララをアンジェリカが誘導する。
メニューを二人で覗けるように開いて目を走らせた。
「ケーキの種類が多いわね……」
「私、ソーダフロート飲みに来たんですけど、ケーキも気になります」
「ソーダフロートって甘いわよ、飲みきってからケーキを頼むか考えたら?」
「そうします」
クララはソーダフロートが値段を確認しようとメニューをじっくり見て、「ソーダフロート(青・緑)」と書いてある事に気づいた。
「ソーダフロートの『青・緑』ってなんでしょう?」
「シロップで色付けするからソーダ水の色が選べるのよ」
クララは目をまん丸にした。雑誌には緑色のソーダ水しか載ってなかった。都会は凄い。ソーダ水の色まで選べるのか。
「私も決まったわ、頼みましょう」
アンジェリカが手を上げてウェイトレスを読んだ。
「ソーダフロートの青ください!」
「私はバタークリームのケーキとダージリンのホットを」
ウェイトレスは笑顔で受け答えし、注文を取って厨房があるらしい方へ消えて行った。
「それにしてもアナタ、カフェに行く、ってパンダから聞いたから何かと思ったけれどソーダフロートが飲みたかったの?」
「はい!」
「でもソーダフロートなら、寮でも飲めるんじゃない?アイスとソーダ水買えばいいんだから」
「それがですね、雑誌で見たこのお店のソーダフロートは夢みたいな飲み物だったのです」
こいつ何言ってんだ、アンジェリカの素直な感想である。
そうこうしている内に頼んだものがやって来た。ウェイトレスがトレーで運んできたものをテーブルに置くとクララの目が輝く。
ごゆっくりどうぞ、そんなウェイトレスの言葉も聞こえないくらいクララはソーダフロートに夢中だ。
背の高いガラスのグラス(ここでいうグラスはアイグラスではない)に並々と注がれたブルーのソーダ水。それはグラデーションになっていて上から濃く、下へ行くほどに薄い青になっていく。ソーダ水の中には星型の氷、そしてソーダ水に浮かぶバニラアイス。
アンジェリカにはちょっと綺麗なソーダフロートにしか見えなかったが、クララには店の中のビーズ飾りよりもシャンデリアよりも眩い存在に見えた。
アンジェリカは紅茶を一口、美味しい。
「……食べないの?」
クララはソーダフロートに見惚れてばかり。しかしアンジェリカ的には飲むか食べるかしてくれないと自分もケーキを食べづらい。
「……勿体ない……でも、食べます!」
スプーンをバニラアイスに突き立てた瞬間、ソーダ水が溢れて白いテーブルクロスに少し広がった。
「あぁ!」
クララが悲痛な声を上げる。
「なにしてるの……見た通り溢れそうなんだから先にソーダ水を飲まないと」
「はい……」
ストローでソーダ水を飲む。パチパチと口の中で炭酸が弾ける。甘さが広がる。冷たいソーダ水が喉を通りながら小さく弾ける。
「美味しい……!」
ソーダ水を飲むと心が弾む!
クララの感想を聞いたアンジェリカはどこか安心してバタークリームを一口頬張った。うん、こっちも美味しい。




