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「明日は、仕事場の人とカフェに行ってくるわ!」
アンジェリカが夕飯の席(両親と兄の内一人は後で食べるので居なかった)で明日の予定を話すと兄たちは全員椅子から転げ落ちた。
「誰!?」
「仕事場の人よ」
「誰!?」
「仕事場の人だってば」
「どこの誰!?」
「だから仕事場の人!」
「なんで!?」
「誘われたからよ」
「どうして!?」
「誘われたの!」
今は五人しかいない兄だが、六人いる時も同じ事をする。
「どんな人だ!」
「ちょっと田舎臭いわ」
「何をしている!」
「雑用係だけど?」
「どこ住みだ!」
「雑用係の寮ね」
「収入は!」
「知らないわ」
「名前は!」
「クララよ」
そこで兄たちがピタリ、と止まる。
「クララ…さん?」
「そうよ」
「女の子?」
「そうだけど?」
「お友達?」
「……まだ友達じゃない」
「明日は友達未満の女の子クララさんとカフェ行くの?」
「……そうよ」
「そうかそうか」
その後はやけにニコニコした兄たちに「楽しんでおいで」「カフェの後は雑貨屋なんてどうだい」「その内、我が家にも連れておいで」「お小遣いいる?」「やあ、今日も食事が美味しい」などと次々に言われたが、アンジェリカは全て無視して祖父と祖母と話をしていた。
次の日、アンジェリカが待ち合わせ場所である精霊殿の前に十時前に行けば、妖精パンダが「こっちなのよ」、とクララの元まで連れて行ってくれた。
クララはいた。
しかしアンジェリカにはクララと認識できなかった。
いつも三つ編みで纏めてるバサっとした髪がツヤツヤで下ろされている。
いつも制服姿ばかり見ていた服、谷の都に来た日の格好が少しダサかったからそればかり印象にあった服装が可愛い。
でも靴は履き潰し気味だ、よくない。
いつもと違うけどちょっと同じクララがそこにいた。
「あ!アンジェリカさん!おはようございます!」
口を開けば確実にクララだ。
「お、おはよう。なんか、なんかいつもと印象違うわ、アナタ……」
少し遠目にパンダたちに見守られている二人だが、人通りもそれなりにあるので気付かない。
えへへ、とクララは照れて笑う。
「同じ寮の皆さんが、髪につけるオイルとか、ちょっと爪が綺礼になるようにマッサージとか、服も貸してくれて……なんか楽しかったです!」
「そう、そうなの……」
「ダサい、芋い」、そう思っててごめん、アンジェリカは心の中で思いながら「そこそこ素材は良かったのね」、とやはり上から目線は変わらない。
「アンジェリカさんと一緒におでかけなんで、気合い入れてきました!」
「……いい心がけだと思うわ」
本当は自分との外出にこんなに気合いを入れてくれた事を感謝して泣きたい。しかし今泣いたら一日が台無しになる。
「中々、似合ってるし、いいと思うわよ」
「わぁ!ありがとうございます!」
にこにことしているクララは「さぁ、行きましょう!」とアンジェリカの手を引こうとして、その手は空をきった。
「こ、子供じゃないから手は繋がなくていいのよ」
手を繋ぐのは嫌ではないが、どうにも落ち着かなくなって喋れなくなってしまう。アンジェリカはクララの隣について「行きましょ」、と言いクララの案内を待つ。
アンジェリカの素っ気ない態度も気にせずクララは簡単な地図になっているメモを手に歩き出した。




