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クララは二日ばかりの休暇を完全に持て余して探索者ギルドのジムに行くくらいしか思い浮かばなかった。ランニングマシーンでひたすら走る。ジムの開く時間から昼前まで走り、シャワーを浴びて、精霊殿裏の大食堂で昼飯を食べて寮に戻る。
談話室の町案内雑誌を見て何処か楽しそうでお金のかからない事はないかと探したが特に行きたい場所は無かった。
うーん、と悩みながら伸びて昨日の内に同寮の女たちに聞いていた休暇の過ごし方を思い出す。
カフェ巡りとか。
本屋に行くとか。
図書館もいい。
友達と遊ぶ。
そこでクララは思うのだ、私は友達いないしな、と。
結局、金のかからない場所という事で図書館に来てみた。最低限の小銭と筆記用具は鞄に入れてきて。
小さな子供を連れて絵本を読みに来た母親たちがいる。子供に読み聞かせする部屋は別にあって、そこでなら少しくらい騒いでも良い、と入り口の案内板に書いてあった。
しかしクララは十五歳。もう絵本で騒ぐ年齢ではないのだ。
「クララじゃないの」
妖精パンダが足元にやってきた。
「パンダはどこにでもいるね」
「ここは小さい子とママがはぐれやすいからパトロールするの」
「えらいね」
「うふふ」
パンダはクララに手を振って背の高い本棚のある方へちまちま歩いていった。
クララはメイの集落から近い大きな町で学校に通っていた。
午後からしか通えなかったので、午前中に四時間くらいかけて教わる勉強を午後の、暗くなる前に帰らなければいけないので一、二時間で詰め込む様に勉強していたのだ。
はっきりいって成績は悪かった。当たり前だ。
でも文字の読み書きは力を入れていたので難しい言葉でなければ読めるし書ける。
図書館でクララは『ストーン・リリーの冒険』シリーズの一冊を手に取った。有名な童話だ。事実を元にした物語だと冒頭に書いてあったのでそうなのだろう。
物語の中では主人公ストーンの目の前で理不尽な出来事が起き、ストーンの従者が巻き込まれる。最後は必ずストーンが腕力に物を言わせて解決して従者を助けるのだ。
従者は見目が良くお人好しでストーンを尊敬しているのですぐトラブルに巻き込まれる。
ストーンは毎回、次に面倒に巻き込まれたら捨てていく、と従者に言うのだが必ず助けてくれる。
そんな出来事の数々を従者がまとめたのが『ストーン・リリーの冒険』シリーズと言われている。
一冊読み終わったところでクララは肩が凝らないように伸びをする。
面白かったが、もう一冊読むのは難しい時間かもしれない。この図書館は貸し出しはしていないのだ。
本を元あった場所に戻してから別の棚を見に行く。『カフェ別ソーダフロートのすすめ』という見出しの雑誌を見つけてすぐ手に取った。
ソーダフロートとは何だ。すぐ近くの椅子に座って雑誌を開く。ソーダ水にアイスを浮かべたものがソーダフロートらしい。なんだそれは、楽園の食べ物か。
ソーダフロートの特集記事を夢中で読み、カフェで出されていると知る。元の席に戻り、鞄から筆記用具を取り出し、カフェの場所をメモする。
明日行ってみるのもいいかもしれない。金はかかるがカフェ巡りが楽しいというのはこう言うことか、とクララは一つ都会っ子に近づいた気がした。




