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谷の都に着くまでの間、クララは増えた分のハーネスをガチャガチャと鳴らしていた。赤竜ターンの防風結界の中なので風が鳴らしてる訳ではない。クララが震えていただけである。
周りは「クララは空の上では震えるもの」と認識したので特に気にせず帰り道を思い思いに過ごしていた。
谷の都、谷底の町にある竜の発着場にターンが着陸し、尻尾にタラップが取り付けられると一度全員で大地に降りる。ラーズはターンの首の方で荷物番をするのでクララたちとは別れることになる。
「それではこれにて『嵐舞』終了となります。精霊士の皆さんは解散してください。あ、クララさんも帰っていただいて大丈夫です」
アーロンの言葉にクララは驚く。まだ荷物はターンの背中に積んだままなのだ。
「え、え、なんででしょうか?」
「この後は荷下ろしをして、精霊殿からの応援と一緒に精霊殿へ荷物を運ぶのですが、今まで女性雑用係が一緒にこの作業をしたことが無いのでクララさんの役割をどうしていいか分からず、帰ってもらってもいい、という我々の結論です」
「そういうことだ。良かったじゃねえか。帰れるんだから」
アーロンとエルジャイブの言葉にクララはなんだか仲間外れにされた気持ちだ。
「わ、私、力ありますよ!」
「いや、応援来るからよ、帰っていいぞ」
「エルジャイブさんは帰らないんですか?」
「俺は精霊士と雑用係半々というか、全体のリーダーだったんだよ、実は。だから精霊殿に終了の報告があるから雑用係と一緒に行動だ」
仲間外れだ!、と訴えたいがこれは仕事なのだ。仕事のリーダーに「帰っていい」と言われたら帰らなければ。少ししょぼくれながら「お疲れ様でした」、と挨拶したクララが後ろを向くとアンジェリカが大量の妖精パンダにもみくちゃにされていた。
小さなパンダたちはアンジェリカに抱きついてはソフィアとリンデに剥がされ、また抱きつきに突撃していた。
「アンジェリカー!」
「アンジェリカー!」
「がんばったのよー!」
「よくやったのよー!」
「やればできる子なのよー!」
「アンジェリカはできる子よー!」
「わかったから!わかったからちょっと落ち着いて!」
四方八方から突撃してくるパンダにアンジェリカは混乱の極みだ。
「リンデ、やっちゃって下さい」
「はいっと」
ソフィアの呆れ混じりの言葉にリンデが魔力を展開させると飛び付こうとしていたパンダたちがみんな宙に浮き始めた。
「きゃー!」
「とんでるのよー!」
「ちょっと楽しいのよー!」
「ゆっくりふわふわなのよー!」
そこまで見て、クララは自分が動けることに気づいた。
「ア、アンジェリカさん、大丈夫ですか?」
浮いてるパンダをかき分けてアンジェリカの側に寄ると、アンジェリカも自分の周囲をパンダが浮く、という謎の光景に放心していた。
「はい、ではアンジェリカ、今日はここで解散です。『嵐舞』立派でしたよ」
「あれ?マディさんは?」
ソフィアが締めようとしたところにクララが横槍を入れる形となってしまった。
「お孫さんが迎えに来て帰ったよ」
浮いたパンダの向こうからリンデが教えてくれた。
「ではアンジェリカ、お休みは二日間ですから間違えないようにしてくださいね」
「あっ、はい、お休み貰えるんですもんね、はい、帰ります。お疲れ様でした」
「アンジェリカの姿が見えなくなったらパンダを降ろすから、先に帰っておくれ」
「あの、私は明日どうなってるか分かりますか?」
「雑用係の休暇は私たちには分からないのですけれど、寮の管理人なら把握してるんじゃないかしら?」
そうなのか、帰ったらミチルに聞いてみよう、とクララは思い、ソフィアとリンデに「ありがとうございました、お疲れ様でした」と挨拶してアンジェリカの手を掴んで歩き出した。
なんとなく、クララの中ではアンジェリカと一緒に帰るのは決定事項だった。
「かえるのねー」
「谷の都におかえりなのよー」
多数浮いてるパンダたちに手を振って発着場から町へとクララとアンジェリカは歩いていった。




