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二日目の昼前、祭壇ではソフィアが踊っている。
しかしキャンプでは朝には出来上がっていたが、クララとエルジャイブしか食べる者が居なかった(他の者は朝は軽め派だった)(サザは作るだけ作って寝ていた)カレーの時間である。
「ナンはあるかい?」
「すいません、今回はバゲットしか持ってきてないんです」
マディの要望にアーロンが対応する。
「じゃあライスカレーがいいねえ」
「それならできます」
昼のカレーに備えてメルクが炊いていた米をプレートに盛り、カレーを添えてマディに出した。
「漬物の類は……ないだろうね、いいんだ、いいんだ」
「すいません、そこまで気が回りませんでした」
「いやいや、お前たちはよくやってるよ、婆ぁがワガママなだけさ」
そう言ってスプーンでライスカレーを食べるマディは「うまい、うまい」とニコニコしていた。
「俺はカレーうどんで頼むわ」
「はい!」
メルクがうどんを茹でている横でクララはパンを切る係をしようとしたのだが、他の雑用係の男たちに「クララさんは先に食べていいよ」とパン切りナイフを持っていかれてしまった。
「じゃあ、クララさんはパン?うどん?」
アーロンに聞かれてクララは「お米でお願いします!」と答えた。朝はカレーをパンで食べた。まだ米でカレーを食べたことはなかったのだ。
アーロンにライスカレーを用意してもらい、座ってそれを食べる。炊いた米は粒の全てがふっくらしており、食べるともちもちする。パンでカレーを食べた時はパンの香ばしさがあったが、炊かれた米は香ばしさとは違う香りがする。米とカレーが絡んで口の中いっぱいにカレーが広がる感覚はとても美味しい。
「美味しいです!」
「サザの奴も喜ぶよ、スープとかカレーとか、時々料理に対してやたらこだわる奴だから」
アーロンは雑用係テントの方を見てそう言った。サザはまだ寝ている。
食べ終わったら片付けこそは!、とクララは雑用係の仕事をしていた。メルクと一緒にだ。
「段々と空も明るくなってきましたねー」
「そうだね、いつ『嵐舞』の終わりなのかな?」
焚き火の側で暇をしていたエルジャイブがやってきて教えてくれた。
「『嵐舞』には明確な終わりは無ぇぞ」
「え?」
「そうなんですか?」
「精霊が固まって嵐というデカいエネルギーになったものを散らすのが『嵐舞』だ。盛大なフィニッシュなんぞ無い。なんとなく終わる。多分、あと一回、マディが踊れば嵐は小雨とちょっとした風になって谷の都に向かう。それで終わりだ」
クララとメルクは二人で「へー」、と手を動かしながら聞いていた。
「なんとなくの終わりは誰が判断するんですか?」
「踊ってる精霊士が『これ以上は精霊の力を散らせない』と思った時だな」
「精霊の力を散らす、って具体的には?」
「楽団が奏でて精霊士が踊れば精霊は遊ぶ、遊べばエネルギーが減る、ようは疲れてもらってんだな」
クララとメルクは食器に付いた泡を洗い流しながら「へー」、と感心する。
「僕、谷の都で生まれ育って『嵐舞』のこと何も知らなかったです。ただ精霊士の方が嵐を寄せ付けない、って思ってました」
「まあ、間違った解釈じゃないからいいんじゃねえか」
「やっぱり楽しそうですよね、交信って」
クララの言葉に結界の外に居る精霊たちが騒めく。
エルジャイブは「お前がそれを言うのか」と思ったものの、口には出さなかった。
「そろそろ終わりが見えてきてるんだ、テント内は綺麗にしておけよ」
はぁい、と返事が聞こえたのでエルジャイブは焚き火の前に座り、居眠りする振りをして交信して、結界外のクララに熱視線を送る精霊たちに帰ってもらうよう促した。




