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それから少し、時間が経つとリンデは再び楽団の元へと出て行った。キャンプには交代でエルジャイブが戻ってくる。
「あー、魔力使うと腹減るなぁ。なんか直ぐ食えるもんあるか?」
火の番をしていたアーロンは作業をしながら応えた。
「焼きそばのそばが残ってるので、今炒めてます。キノコスープに入れて食べてください」
そこへ、クララもテントから出てきた。
「お疲れ様です、エルジャイブさん。さっきメルクさんは焼き林檎を作ってくれましたよ!」
「おう、お疲れ。焼き林檎かー、テントに行けばリンデの持ってきた菓子があるからいいかな」
「男性のテントにはどんなお菓子があるんですか?」
そう聞いたクララにエルジャイブは祭壇方向を見ながら、チョコレート、クッキー、ドライフルーツ、ケーキ、キャラメル、と答えた。精霊士テントにあるものと殆ど変わらないようだ。
「コーヒーは俺が持ち込んで、お茶の類はリンデとソフィアが持ってきたみたいだな」
「そうだったんですね」
今、アーロンが淹れてくれたのは焙じ茶だ。温かくて良い香りがして落ち着く。
「それにしてもリンデさんの休憩時間、一時間くらいでしたけど大丈夫なんでしょうか?」
「あいつは滅茶苦茶多い魔力を体力に出来るから無尽蔵に動こうと思えば動けるぞ」
「……リンデさんに出来ない事ってあるんですか?」
「同じことを前に聞いたら『出来ない事は出来ないよ』って言ってたなぁ。まあ何かしらあるんだろうさ」
アーロンが温めたキノコスープを炒めたそばの上にかけて持ってきた。丼が無かったのか大きめのスープボウルに入っている。
「すいません、深めの器が無くて…そばもキノコもおかわりはまだありますから言ってください」
「おう、ありがとな」
そばに味はついてないが、キノコスープが美味いと分かっているのでクララは頭の中で味を想像して大変幸せな気分になった。
少しとろみのあるキノコスープ。キノコから出た味と少し加えた塩味がとても優しく美味いのだ。
クララは祭壇の方角を見た。遠目にソフィアが翼を広げて舞っているのが見える。
そんなソフィアに雷が落ちた。
「……っっっな、なんで!?避雷針は!?」
「落ち着け、クララ。ソフィアはまだ踊ってる。魔法でどうにかしたんだろう。アーロン、一応避雷針の確認に行ってくれ」
わかりました、とアーロンがレインコートを取りにテントへ向かった。
「ああ、ソフィアか、こっちも見てた。無事なんだな?マディさんを起こして交代は……まだいいか、大丈夫なら続けてくれ」
ソフィアからテレパシーが入ったらしいエルジャイブが独り言のようにソフィアと会話する。クララはこういう時はハラハラしているしかできない。精霊士ではないから。雑用係だから。
「……クララ、お前、目がギョロギョロしてるぞ。ソフィアは全くの無事だから安心しろ」
エルジャイブに言われてクララは焙じ茶のカップを額に当てながら強く目を閉じた。うー、と唸り声もあげる。
「アーロンが戻ってくるまで待て、『嵐舞』中の雷はよくある事だ」
アーロンが戻って来た時、エルジャイブは鉄板にあった炒めそばを全て食べ終わっていた。アーロンが遅かったわけではない。エルジャイブの腹が減っていただけだ。
「避雷針、問題ありませんでした」
「うん、避雷針を無視できるくらいの力の雷の精霊が来てたか、小さな精霊の力が合算されたかだな。ソフィア、聞こえるか、避雷針問題無しだ、ああ、引き続き気を付けてくれ」
ソフィアに注意喚起のテレパシーだけ送ってエルジャイブはアーロンを労う。乾燥魔法でレインコートも乾かしてやった。
「アーロン、この『嵐舞』は順調に進んでるとして、雷はいつ頃去る?」
「朝ですね、事前予測では」
「ならマディの後のアンジェリカの踊り中には雷は来ないか……結界を強めるかなぁ」
うーん、と考えるエルジャイブを背にクララは焚き火に薪をくべていた。
結論としては、朝になってから考える、ということに落ち着いた。




