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アーロンと暫く話したあと、クララは精霊士用テントに戻ってきた。
静かにテントに入れば、二段ベッドのそれぞれ下の段でマディとアンジェリカ(とパンダ)が眠っている。
リンデはコーヒーを飲みながらチョコレートテリーヌを食べていた。
「おかえり」
小声で話しかけてくるリンデにクララも小声で「ただいま戻りました」と応えた。
「きみも食べるかい?」
そう言いながらチョコレートテリーヌを指差したのでクララは勢いよく頷く。チョコレートは高級品なのだ。このお菓子はどんな味なんだろう。
縦長なチョコレートテリーヌを切り分けて皿に載せてくれたリンデにお礼を言って一口口に入れると、濃いチョコレートの味がした。濃い。濃いのだ。チョコレート以上にチョコレートなんじゃないかと思うくらいに濃くて甘い。おいしい。
「!!!」
「小声でね」
「……おいしいです……」
それはよかった、とリンデはポットにお湯を魔法で注いだ。
「お茶とコーヒーどちらにする?」
「お茶でお願いします」
あれ?なんだか精霊士と雑用係の役割が入れ替わってないだろうか、とクララの頭に過ったが、チョコレートテリーヌが美味しいのだ。今そんな事は問題ではないだろう、と口をもぐもぐ動かすことにした。
「さっきアーロンさんと話してたんです」
クララはチョコレートテリーヌを食べ終え、お茶を飲んでから話し始める。
「アーロンさんは気象予報士になりたいそうです」
「ああ、彼は気象室付きだものね」
「そういう、将来『こうなりたい』というものを持ってるのって凄くいいな、って思いました。みんな持ってるものなんでしょうか?」
「将来の夢ってやつかい?」
「はい」
クララはアンジェリカの寝ているベッドを見た。精霊士見習いをやっているのだから、アンジェリカの夢はそこにあるのだろう。
マディの寝ているベッドも見た。長生きすれば、自分の夢が何なのかわかるのだろうか。
「うーん、私は別にやりたい事があった訳では無くて、出来ることを仕事にした結果の今だからなぁ」
目の前のなんでもできる人は夢無し人だった!
「え、なんか意外です」
「ははは、そういう奴も居るって事を憶えてれば、進路選びも楽になるよ」
進路選び、自分の進路は雑用係が終着点ではないのだろうか?、クララは首を傾げ、元に戻し、お茶を飲んで、考える。
「今は雑用係の先輩たちみたく何でも出来て、後輩が出来たら何でも教えてあげられるようになりたいです」
「それが今のクララの夢だよ。小さくても大きくても夢、ってうちの兄も言ってた」
「お兄さん、良いこと言いますね」
「自慢の兄さ」
くすくす、と二人で小さく笑った。




