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マディが入った後に湯が抜かれたバスタブにアンジェリカは降ろされて背中がたっぷり濡れたクララは魔法でお湯を注ぎ始めた。
「お湯加減どうですか?」
「……もうちょっと熱い方がいいわ」
「はーい」
どばどばと注がれる湯にアンジェリカは息を吐くと瞼が重たくなってきたのを感じた。
「寝るなよ、アンジェリカ」
エルジャイブに釘を刺されたので慌てて手で湯を掬って顔にかける。
「魔力回復は寝るのが一番効率的だが、湯船で寝るのは危ないからな。俺はリンデと交代してくるから、お前も温まったら飯食ってから寝ろよ」
そう言ってエルジャイブは楽団の方に歩いていった。
ここで残されたアンジェリカはある事に気付く。
「わ、私、まだ乾燥魔法使えないわ!マディさんどこかしら?」
「マディさんならテントで寝てますよ」
そう言いながら背中がびしょびしょに濡れているクララは湯を出しながら小さくクシャミをする。自分のせいでクララが風邪をひくかもしれない!、とアンジェリカは慌てた。
「あ、アナタもお湯に入りなさい!温まるのよ!」
「え、でもバスタブ狭いですし…」
そうやってきゃいきゃい騒いでるとエルジャイブと交代したリンデがやってきて、「何してるんだい?」と聞いてきたのだ。
アンジェリカは慌てたところを見られて顔を赤くするが、クララは特に何事もなく「お疲れ様ですー」と気の抜けた声を出していた。
「あ、クララ服が濡れてるね、乾かすよ」
「ありがとうございます!」
乾燥魔法がやってきた!、とアンジェリカは思ったが口には出さなかった。服を乾かしてもらったクララは暖かくて気持ちいいのかご機嫌だ。
「あと、アンジェリカお疲れ様。花火良かったよ」
リンデはそう言うと袖の中から耳をぴょこぴょこさせている妖精パンダを取り出してバスタブのヘリに載せた。
「パンダ!?」
「おつかれなのよ、アンジェリカ。ちゃんと見てたのよ」
「え?『嵐舞』は風が強くて飛んじゃうから嫌だって言ってたじゃない!」
「竜に乗るのもちょっとにがてなのよ。とんでっちゃうから。でもリンデに召喚魔法でよばれたのよ」
クララは学校で勉強したことを思い出したが、魔法を専門的に教えてくれる学校ではなかったので召喚魔法と言われてもよくわからなかった。召喚する魔法なのだから、何かを呼ぶのだろう。それが今回はパンダなのだな、と納得はした。
「パンダたちもアンジェリカの事は心配してたみたいだから喚ばせてもらったよ」
この人なんでもできるな、とクララは思った。テント内のお菓子もとても美味しかった。
パンダは湯に沈まずに水面を歩いてアンジェリカに近づき、アンジェリカの頬に額をぐりぐりと押し付ける。
「ほんとうにがんばったわね、アンジェリカ」
アンジェリカの中で何か緊張していたものがふつり、と切れた。ぼろぼろと涙が出てくる。
「パンダ……!、私、本当に怖くて、緊張して、でもクララが助けてくれて、でも上手くいってるのかわからなくて、三十分しか踊れなくて……!」
「うん、ぜんぶ聞かせてほしいのよ」
パンダを抱きしめたアンジェリカは肩を湯船の中に沈めて震えながら話しを始める。
涙するアンジェリカを目の当たりにしてクララはどうしていいかわからずおろおろとしていると、リンデから指示を出される。
「クララ、ここは私が見てるから、ちょっと食事を温めておいてくれるかな?私とアンジェリカの二人分ね」
「はい!」
小走りでクララは調理場となっている場所まで行き、魔法の火と焚き火の両方の番をしていたメルクと一緒に数人分残しておいた料理を温め直した。




