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踊りは音に合わせる必要は無い。この演奏は精霊に捧げるためのもの。踊り手は精霊と呼吸を合わせ、近づいてきた風の精霊の誘いに乗って宙を舞い、水と一つになり、雷火に怯まず踊り続けるのだ。
マディが広げた扇を振れば、衣装は大きく広がり風を受ける。雨でどんどん濡れていくのに布は萎むこと無く広がって小柄なマディの代わりに大きく動くのだ。
「マディ婆さん、飛んでんなー」
キャンプでホットドッグを食べ終わったエルジャイブはコーヒーを淹れる支度をしながら祭壇を見る。『嵐舞』は最初の掴みで精霊の心を祭壇に釘付けにしなければ嵐は通過し、谷の都にそのまま行ってしまう。
マディの踊りも楽団の選曲も問題無かったようで精霊たちは興味津々に祭壇に集まってきている。
マディも五メートル程、宙に浮いていた。
「飛んでますね!」
「マディさん、飛行魔法使えるから安心して見ていられるけど……そうじゃなかったら怖くてしかたないわ」
メルクがソーセージを焼く度に誰かが寄ってくる。今はクララとアンジェリカがホットドッグを食べ、焚火の周りには雑用係たちが順番待ちをしている。メルク当人は何も食べられずソーセージとパンを炙り続けている。
エルジャイブがコーヒーをキャンプにいる人数分淹れると喜びの声が上がった。キャンプは防風防水の結界が張られていても、少しずつ冷気が地面からやってくるのだ。これは結界の範囲を土の中まで伸ばすなど対処法はあるのだが、結界石の操作が精密になってくるのでエルジャイブは提案すらしなかった。寒かったら温かいものを口にして毛布に包まればいいのだ。
コーヒーに砂糖を入れるか入れないかの話になった段階で、漸くメルクはホットドッグを食べる事ができた。




