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精霊士四人が周囲の精霊との交信を終えてキャンプに戻って来ると、テントがいくつか出来上がっていた。
キャンプ中央に置かれた一番大きなテントが女精霊士たちの拠点のようだ。
「リンデ、お願いしてもいいかしら?」
「了解」
ソフィアがリンデにそう言うと、リンデはテントに入って行き、数分で出てくる。
「内装整えておいたよ」
「リンデちゃんと一緒だとこれがあるのがいいねぇ」
「お褒めいただき光栄です」
マディの言葉を受け取ったリンデは「他の出来てるテントにもやってくる」とその場から雑用係たちの方に向かって行った。
ホクホク顔でテントに入っていくソフィアとマディにアンジェリカもついて行くとテントに入った瞬間に目を見張った。
「テントが!大きい!」
外から見たテントよりも中に入った方が明らかに広い!絨毯が敷いてある!二段ベッドが二つ!テーブルにお菓子がいっぱい!
「な、なんですかコレ!住めるじゃないですか!」
アンジェリカは驚きながらも絨毯の毛足の長さを確認してブーツを脱いだ。
ソフィアもマディもテーブルの上のお菓子にキャッキャしている。
「リンデはこういう魔法が得意なのよ」
「リンデちゃんのお菓子のセレクトは美味しいものばかりでねぇ、わたしゃキャラメルが好きなんだ」
どういう魔法だ!、とアンジェリカは慄いた。マディに至っては菓子の話しかしていない。
とんでもない魔法で、魔力がとんでもなく使われている事は間違い無いのでは?これから仕事が立て込んでいるリンデにそんな魔力を大量に使わせるわけにはいかない!、とブーツを改めて履いたアンジェリカは外へ飛び出した。
「わー、すごいですね!リンデさん!」
「本当に凄い!俺たちのテントも豪華!」
「いつもすみません、リンデさん」
遅かった。雑用係用のテント二張りが既に快適空間へと変えられている。
「じゃあ、他のテント張りと荷解きも頑張ってくれ、私は避雷針置いてくるから」
「はい!ありがとうございました!」
アンジェリカは必要な道具を持ってキャンプを出ようとするリンデについていくことにした。
「リンデ先輩!」
「やあ、アンジェリカ、なにかテント内に足りない物でもあったかい?」
歩みを止めようとするリンデに「どうぞそのまま」、と伝えて隣を歩く。
「そうじゃないんです。先程の魔法、感服しました。でもこれから『嵐舞』なのにこんなに魔力を使っちゃったらリンデ先輩が大変じゃないですか」
アンジェリカの心配をよそにリンデは困ったように笑う。こういう心配をされる時、どのような対応が正解なのかよく分からないからだ。
「魔力の量は人より多いから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
まるではぐらかすかのような言い方に、アンジェリカは悲しくなった。両目から涙がぼろぼろ溢れてくる。
「えっ、アンジェリカ!大丈夫かい?」
リンデは荷物を放り出しハンカチを取り出してアンジェリカの目元に当てる。
「あー、曇りから雨になるからね、風も強い、精霊の動きに心が揺らされてるんだ」
精霊士は精霊に干渉できる。精霊もまた精霊士に干渉できるのだ。一人前の精霊士ならそんな事にはならないが。アンジェリカは自分の状態を知って益々涙が出てきてしまう。
「落ち着いて、アンジェリカ、自分に結界は張れる?」
はい、と小さな声で答えながら薄いけれど結界を張る。すこし、心の揺さぶりが軽くなった気がした。
「そのままテントに戻って、ソフィアとマディさんに診てもらうといい、テーブルのケーキも食べていいよ」
まるで小さな子供にいうように告げるリンデに悲しさが募るが、言うことをきこうと思えた。ケーキに釣られたわけじゃない。
ゆっくりと歩いていき、テントに猫のように滑り込んだ。




