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『嵐舞』決行の日の朝、クララもアンジェリカも谷底の町にある竜の発着場にいた。
「アンジェリカさーん!おはようございます!」
「……おはよう」
ここに来るまでにクララが使ったのは馬車(飛ばない)だったので朝から元気一杯である。
一方、アンジェリカは緊張で朝はスープを飲むので精一杯だった。当たり前だが元気ではない。
クララは『嵐舞』までの数日間、仕事終わりにエルジャイブから簡単な講義を受けたり、力試しに重い荷物を運ぶよう指示したらエルジャイブが驚く程に重い物を運んで見せたりして今回の儀式同行を認められた。第二寮の女たちは最後まで心配していたが、クララは笑顔で「アンジェリカさんも一緒なので大丈夫です!」と挨拶をして寮を出てきた。寮の女たちは「アンジェリカが一緒だと何が大丈夫だというのか……」と走って玄関を出て行ったクララを更に心配したが、どうにもならない。
「今日はどんな竜に乗るんでしょうか?」
「……人数が少ないから大型ではないでしょうね、でも荷物があるから小型でもない、中型竜のどれかよ」
そうこうしている内にソフィアの姿も見つけた。
「ソフィアさん!おはようございます!」
「おはようございます、クララ。アンジェリカも……大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
なんだか元気の無いアンジェリカをクララとソフィア二人で心配していたら、ソフィアの背後にもう一人出てきた。小柄で色黒な老婆だ。
「おはようございます!」
会ったのだから挨拶だ。クララは廊下掃除、窓掃除の際に見た事はあるが名前は知らない、そんな老婆に朝の挨拶をした。
「ほほほ、元気でいいねえ、おはようさん」
「クララといいます。雑用係として同行させていただきます!」
「ああー、アンタがパンダたちが推薦してた子かい。あたしゃ、マディだよ」
「マディさん、よろしくお願いします!」
そこに他の雑用係から声がかかった。クララは精霊士たちに手を振りながら雑用係の男たちのいる方へ走っていく。
雑用係の男たち数名が居る場所にはエルジャイブもいた。
「はい、じゃあ全員揃ったので説明します。今日乗せてもらうのはこの赤竜・ターンです」
エルジャイブの隣にいる雑用係の男が紙を片手に、もう片手で近くにいた赤い竜を示した。
「荷物はあちらに昨日までに搬入済みですので今からターンに載せていきます。荷物には上下があって、黒いシールが貼ってあるのが上、白いシールは下面です。必ずシール同士を接着させて置いてください。それでは作業開始で」
ぞろぞろと男たちが積荷に向かう中、クララもついて行こうとしたらエルジャイブが横に来た。
「今回の『嵐舞』、俺はどっちかってーと雑用係と精霊士の仕事半々だから初心者のお前の指導もする」
「よろしくお願いします!」
「まずはシールの話だ、憶えてるか?一昨日あたりに教えた筈だが」
流石にクララもこれは酷い扱いだ!、と怒りを表すポーズをとっておく。
「魔法の力で白い面と黒い面がくっつくんですよね、竜の上から落ちないように竜にもシールが貼られてる、って一昨日教わりましたよ」
荷物を前にして、適当な木箱に手をかけるとクララと同世代に見える雑用係が声をかける。
「それは結構重いからクララさんは軽い物を……え?持てるの?」
「意外と力はあるんです!」
「コイツ、力はお前ら以上かもしれねーから気にすんな、使え使え」
赤竜の尻尾からかけられているタラップを木箱を持って上がると雑用係たちは少しざわつくが、クララの後ろをエルジャイブが木箱二つ持って歩くのを見ると「自分も働かねば」という気持ちになり、動きを再開する。
竜の背には最初に説明をした雑用係の男が紙を数枚めくりながらどの荷物を何処に置けばよいかを指示していた。
「クララのは十二番だから十三番の箱の上に重ねて、エルジャイブさんの箱は四本腕の左後方付け根近くにシールが貼ってあるのでそちらに、二つともです」
中型と言っても大型の宝石竜ダイアが大きすぎるだけで十分に大きい。竜もべったりと伏しているので歩きやすいものだ。
「どんどん運ぶぞー」
クララは初めての大仕事の予感にワクワクしていた。




