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クララは精霊殿内にあるリンデの部屋に来ていた。お茶を淹れてもらって少し口をつけ、カップをソーサーに戻す。
「……お恥ずかしいところをお見せしました……」
「落ち着いたなら何よりだ。お茶請けもどうぞ」
「……ありがとうございます……いただきます……」
「いただくのよ」
いつの間にか妖精パンダもついてきていた。パンダがチョコチップクッキーを食べているのを見てクララは「チョコだ!」と心が沸きたつ。
「これ、チョコレートですよね!」
「うん、チョコチップの入ったクッキーだよ」
恐る恐るチョコチップクッキーを口にする、一口、クッキー自体もサクサクしていて美味しい、その中に細かなチョコレートが!
舌の上で転がすとまったりとした甘さ、魅惑的な香りが鼻を抜けていく……美味しい。
「美味しい!」
「それならよかった」
「リンデ、パンダは紅茶のクッキーもたべたいのよ」
厚かましいパンダのお願いにリンデは「はいはい」、と応えてクッキーを出してくれた。
「こっちも美味しい!」
パンダがあんまりにも紅茶クッキーを美味しそうに食べるものだからそちらにも手が伸びてしまう。チョコチップクッキーよりサクサクしていて美味しい。
「リンデのお家のシェフがつくってくれるおかしはおいしいのよ、チョコチップクッキーはお店のだけど。もぐもぐ」
「シェフ!?お家にシェフが!?」
リンデは困ったように笑いながらパンダの頭を撫でる。
「パンダ、プライベートだよ、それは」
「ごめんなさいなのよ、パンダもお茶ほしいのよ」
これはダメだ、とリンデは思ったが一応お茶は淹れてやった。パンダは小さな存在だがお茶の入ったティーカップくらいは持てる。
「質問です!プライベートな質問です!」
「うーん、質問によるかな、どうぞ」
「リンデさんはお嬢様なんですか!?」
「お嬢様、という歳じゃないけど……まあ、そうだね、嫁いでないし、まだお嬢様なんだよね、これが」
凄い!、とクララは感動した。髪も短くて、パンツスタイルのお嬢様が世の中に居るとは思わなかったのだ。お嬢様はみんなアンジェリカやソフィアのように髪が長いものだと思っていた。(ソフィアは中流階級出身らしいが)
「でも私は軍に居たし、退役して精霊士やってるから普通の旧貴族のお嬢様ではないかな」
「軍にもいらっしゃったのですか!」
「その縁で度々呼ばれるね、貪獣捜索に」
武闘派だ!、とクララは思った。ミチルよりも武闘派なのかもしれない。
その時、部屋の扉をノックする音がした。
「開いてますよ、どうぞ」
失礼します、と入ってきたのはクララが廊下掃除の時に数回挨拶した事がある精霊士だった。
「リンデさん、気象室から……すいません、お客さんでしたか」
「いや、少し待ってくれ。クララ、すまないが仕事が入りそうだ。まだ案内したい交信室もあったが、今日はここまでで」
「はい、色々見せていただき、ありがとうございました。お茶もクッキーも美味しかったです」
「チョコチップクッキーは持っておいき、缶で買ってるから」
「いいんですか!?」
「どうぞ」
「じゃあ帰りはパンダがあんないするのよ!」
リンデは棚から新しいクッキー缶を出してクララに持たせてくれた。これは寮のみんなと食べよう!、とクララはうきうきする気持ちでリンデと名前を知らない精霊士に挨拶して部屋を出て行った。
「で、気象室が、なんて?」
「嵐が発生する予兆を捉えました、明日は朝一で会議です」
ふむ、とリンデは目の前の精霊士を見る。
「他の精霊士には?」
「部屋に書類を入れてきました。休みや早上がりの者には鳥で連絡を」
「私の元にきみが来るということは?」
「先に言いますが、今回の楽団を担当して頂きたく」
はぁー、と息を吐いてリンデは椅子に座った。戦地から帰ったのはつい先日なのだ。単なる出張だったエルジャイブと違ってもう少し仕事の加減をしてほしい。そう上に言っても無駄だろう。目の前の精霊士に言っても更に無駄だろう。
「引き受けた、と精霊士長に伝えてくれ」
「ありがとうございます。失礼します」
部屋から精霊士が出ていってから、リンデは必要な人材を紙に書き出していった。




