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木と土の交信室の扉は魔力を流さなければいけないわけでも鍵があるわけでもなく至って普通の扉だった。
扉を開けて中に入ると大きな大きな樹がまず目に入ってきて、クララはふわぁ、と息を吸いながら声を飲み込んだ。
大樹は三階まである天井につく前に窓から外へ外へと枝を伸ばす。精霊殿正面からも外に出てる大樹は見えていた。
大樹に近づこうと首を上に向けたまま歩き出すと足下からは柔らかな感覚。芝生が生えている。
「ここの床は外されてて、地面剥き出しなんだ。長い時間かけて苔や芝生が生えてきた部屋だと精霊たちは教えてくれる」
リンデの説明に一つ頷き、改めて部屋をぐるりと見てみると、芝生の上に直に座って瞑想らしきことをしている精霊士もいれば、敷物を敷いた上に座って何かと対話している精霊士もいる。妖精パンダもあちこちにいる。
「あの、大きな樹に触れてみていいですか?」
クララは大樹にとても惹きつけられていた。触れてみたい、抱きついてみたいと思うほどに。
「うん、樹は『いいよ』と言っているよ」
「ありがとうございます!」
すぐにクララは大樹に駆け寄り、そっと触れてみる。ーーーー、何か言っている。
両手で触れてみる。ーーーー、この大樹の声だ。特に根拠は無いが、クララはそう感じた。
抱きついてみる。ーーーー、何か言っているのはわかるけど、それが何なのかわからない。
困ってしまって近くまで来てたリンデを見上げた。
「木の精霊は樹木という体を持っているから妖精に近いんだ。パンダたちと同じさ。でも木には声を発する仕組みは無い。ここの大樹は力のある精霊だからテレパシーで君と交信をしたんだけど、なにか聞こえた?」
「聞こえそうで聞こえないんです」
「そうか、じゃあ、通訳するけど『お嬢さん、いらっしゃい。どこから来たんだい?』」
クララの顔がぱぁ、と明るくなる。なんだかとても心惹かれる樹と会話が出来る!
大樹に向き直って触れた状態でクララは答えた。
「はじめまして、クララです。メイの集落から来ました」
ーーーー。
「『ここから南東にある標高の高い山だね、あそこの木々が急にクララが居なくなって寂しがってるよ』」
まあ!、とクララは驚いた。メイの集落は田舎すぎて場所がわかるのは集落の者か、近くの街に住んでいるかなのに。
「そうだね、こちらにくる前に山にも挨拶すればよかった。産まれた時から住んでた場所なのに」
ーーーー。
「『人は我々に心があるとは思ってないから仕方ないね。今度メイの集落に行く時があったら話しかけてみなさい』」
「伝わるかしら?」
ーーーー。
「『今こうして、リンデを挟んで私たちは話をしているよ』」
「そうね、木にも土にも風にも火にも水にも貴方達はいるものね。挨拶してみる」
ーーーー。
「『ありがとう、クララ』……ん?寝た?寝たのかな?大樹は直ぐにテレパシーを中断するんだものなぁ」
クララの目には精霊は見えない。クララの耳には精霊の声は届かない。けれど他人の助けがあったとは言え、クララは精霊と会話『交信』をした。
「進化したわ……」
「ちょっと進化したわね……」
こそこそとパンダたちが話しているが、クララにはそれどころではない。
「私、精霊とお話しできてました?」
「うん?ちゃんとできてたよ?」
「なんだか、凄い事じゃないですか?」
「凄いよ、きみは凄い子だ」
「うーーーわーーー!」
「ちょ、ちょっと待とうクララ、騒ぐのはまずい、みんな交信してるから」
大樹に抱きついて騒ぐクララを宥めながらリンデは他の精霊と交信していた同僚へ「すまない」と謝っていた。




