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「うわぁー!」
クララは今、飛んでいる。その身ひとつで風の交信室を二階程の高さで飛んでいた。
クララが単独飛行できる筈もなく、クララの右手をリンデがしっかり握ってリンデの魔法で飛んでいるに過ぎないが、クララ初の生身飛行である。
室内を上下に入れ替わる風が丁度溜まって木の葉や埃が溜まる場に居たゴミ捨て係の有翼人・ネイローがクララに手を振っていたが、クララは気付かなかった。代わりにリンデが手を振り返しておく。
「クララ、風の精霊たちが君に挨拶してるよ(大量に)」
「わー!わー!こんにちわー!」
精霊たちがクララ必死の挨拶に喜んでいる。その様子を見てリンデは「やはりこの子の天職は精霊士なのでは?」と思うのだが、当のクララは全く精霊が見えていない。
少しずつ上へ上へと浮きながらクララはずっと強風に大声をあげていた。
風の交信室の屋上出入り口から外に出て屋上に足をつけた途端に体が重くなる。飛行魔法が解けたのだ。クララはその場にへたり込んだ。
「うわー、飛んだ……!」
「飛んだね、今のが風の交信室だよ、風の精霊の声を聞く部屋」
「凄い風が吹いてました……」
「それだけ精霊たちが来てくれてるんだね」
ちょっと失礼するよ、とリンデが離れて屋上で休んでいたローブ姿の有翼人(精霊士だ)と話をしている間、クララは衝撃的な出来事(飛行)を振り返っていた。なんというか、自分が空を飛ぶ分にはヒッポグリフ車で飛んだりするよりは怖くないと思えた。空を飛ぶ根拠のリンデが目の前に居て手を握っていてくれたからだろうか。
少し屋上で休んでから、次は木と土の交信室に行くことになった。帰りも風の交信室を通るのかと思ったが、屋上から五階に降りる階段を使って一階まで降りていくとの事だ。
「クララはダイアの『鱗剥がし』に行ったんだって?ソフィアから聞いたよ」
「そうなんです!」
「ダイアの騎手のヴァルキリヤとは家族のような仲なんだ。ヴァルキリヤからも『一生懸命働いてくれたからまた来てほしい』と聞いてるよ、働き者なんだね」
「そんな事はないです!羊飼いしてた頃と同じようにやってます!」
「それが働き者、ってことなんじゃないかな?」
「……えへへ」
褒められていると知るのは嬉しいなぁ、とクララは笑顔になった。その時、前を行くリンデに後ろから蜂が近づく。後頭部近くに蜂が近づいたのでクララが注意を促さねば!、と声を出そうとした時、リンデは一瞥もせずに蜂を避けてしまった。クララ、びっくりである。
「え?」
「ん?蜂なら風の流れを作って外に出てもらったから安心して」
「いえ、そうではなく……あ、蜂の翅の音で分かったんですか?」
リンデの顔半分は布で覆われている。見えていない範囲の方が多い、しかも今の蜂は背後から来ていたのだ。
「片目しか見えてないと危ないことが多かったからね、魔術で視野を広げているんだ。背中側も見えるよ」
「そんな事できるんですか!?」
「魔法で出来ない事は多いけど、魔術は研究次第で色んなことができるんだよ。魔術が完成しても視界の広さに慣れるまでは歩くだけで酔ったりしたけど」
確かに視界がそれまでと変わったら酔うかもしれない、完璧だったり便利なだけでは無いんだなぁ、とクララは新たな事を知った。
話している間に下に降りる階段が見えてきた。木と土の交信室の入り口は一階にある。




