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クララが働き始めてから半月と数日、遂にこの日が来た。
「お給料日だ!」
クララが仕事終わりに寮でミチルから受け取った封筒の中身は半月と数日分、ということで他のみんなよりは額は少ないが、それでも収入は収入である。
部屋に戻って中を確認して表情が明るくなる。
大事に金庫に入れて、今日はランニングもジムも行かずにシャワーを浴びてしまおう。昨日の仕事帰りにスピアーズ商店に寄ってソーダ水は買ってきてある。
シャワーを浴びて、部屋でソーダ水を飲んで、ベッドに飛び込んでみたりして、この沸き立つ心をどうしようと考え手紙を書く事にした。
半月以上経ったので、そろそろ手紙を出す頃合いだろう。
何を書こうか、竜に乗って見たアンゼ=ルーカの街並みに鳥肌が立った事、お仕事をする精霊殿はとても大きい事、仕事仲間はいい人たちばかりでとても恵まれている事、まずは伝えたい事を紙に書いてまとめようとしたら全くまとまらない。これは便箋何枚になるかわからないぞ、と気合を入れてペンを走らせた。
手紙の下書きが終わった頃には夕飯時で、寮のみんなと大食堂に向かう。
話題は食べてる間も給料の使い道だ。
クララも鶏唐揚げ定食をもぐもぐと食べながら話を聞いている。鶏の唐揚げというものは実に美味い。谷の都に来てから米に出会い今は炊いた米を食べている。パンの方が好きだが米も好きになってきた。炊いた米を炒めた焼き飯も好きだ。焼き飯はパンと同じくらい好きかもしれない。
「クララは初お給料だね、何に使うか決めた?」
同寮の女たちにそう聞かれてクララはうーん、と考える。
「とりあえず服が欲しいです。あまり持ってないので……寮に戻ったら皆さんの行く服屋さん教えてください!」
「わかった」
「いいよー」
「地図書いてあげるからメモ用意しなさい」
と、わいわい食べながらの話は非常に楽しい。
寮に帰ってきて談話室で色々聞いている内にアンジェリカの話になった。何故だろうとクララは聞いていると、どうやらアンジェリカは服屋の娘らしい。
「オーキッド衣料品店っていって、谷底の町では大きな服屋さんよ」
「アンジェリカちゃんの服は一点ものよね、あれ」
「凄いレースとか付いてるもんね、買ったら高そう」
「行ってみるといいわよ、地図は……この雑誌に載ってるわ」
はい、と雑誌を渡されてチェックすると衣料品店の特集が組まれた雑誌だった。ありがたい、と思いながら質問する。
「あまり高い服も買えないので、古着屋さんも知りたいんですけど……」
女たちは各々お気に入りの古着屋を挙げていく。どの古着屋も同じ通りに固まってるらしく、見比べるのが楽なようだ。
「お店が多いですね」
田舎者らしい発言にそりゃそうだと女たちは笑う。
「私たちも谷底の町のことしか知らないけど、西と東を合わせたらまだまだあるわよ」
「皆さんは休日に西か東に行ったりするんですか?」
「西には行くかな。東は敷居が高い店が多いから一回旧王宮見物に行ったくらい」
「私もだわ」
「交通費考えたら谷底の町でなんでも済ませた方がいいわよね」
「その通り!」
きゃいきゃい、楽しい話はミチルに「消灯時間よー」と言われるまで続いた。




