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ミチルにアドバイスを貰い、動きやすい格好に着替えて肩掛け鞄にタオル数枚と着替え、財布を入れたクララは探索者ギルドに来ていた。大きく「受付」と書かれたテーブルに座る女性に話しかける。
「あの、初めてなんですけどジムを使いたいんです」
「はい、ジムのご利用ですね、一日五〇パルになります。夜九時までしかジムは開いてませんが宜しいでしょうか?」
今は夕方の四時、二時間くらい利用して寮に戻ってみんなと大食堂に行けばいいか、と思い了承した。
「では、このリストバンドをお着け下さい。ジムの出入りの際に提示いただきます。こちらの通路を真っ直ぐに進みますとジムになります。手前には男女別の更衣室、シャワー室もありますのでご利用ください」
使用料と引き換えに貰ったリストバンドを着けて通路を進んだ。
更衣室にある鍵付きロッカーに鞄を預けてからジムに入ると、まずはストレッチの為のスペース、その奥に体を鍛えるための様々な器具が置かれた広い部屋になっている。
クララはストレッチを軽くした後にランニングマシーンで走り始めた。
ちょろちょろと妖精パンダがジムの中にいる。
「なに、してるの?」
走りながらパンダに聞いてみる。
「見回りなのよ。ときどき、バーベルにつぶされてるやつがいるから見回ってあげてるのよ」
「へぇ」
「ちからじまんはいいけれど、見栄をはってバーベルの負荷をあげるのは勇気じゃないわ」
「そうだね」
「じゃあね、パンダはまだまだ見回りがあるからね」
「バイバイ」
少し息がきれてきた。でも心地よい。前は山の斜面を駆け上がっていたものだ。
ブラッドシープは大型の羊だ。
群れでいれば一匹の狼くらいは追い払える獰猛な性格だが、人にはあまり興味が無いのか襲ってはこない。
一番価値があるのは真っ赤な血の色をした角で、あとの部位は大した価値が無い。
その角は熱した飴のように柔らかく、毎日羊飼いが延ばしてやらないと直ぐにグニャグニャになってしまう。
曲がった角は濁った色になり価値が下がる。
毎日延ばしてやって真っ直ぐに育った角だけが美しい色合いになるのだ。ブラッドシープが死んだ時に角も硬化する。そうした角を出荷するのがメイの集落での仕事だった。
角は加工されて宝石のように扱われる。真っ直ぐな角をどう丸めたり削ったりしてるのかはクララは知らない。
獰猛な性格故に雄同士で角をぶつけ合って折ってしまう個体もいて、非常に利益を出すのが難しい家畜であったが、クララの一族は長い年月ブラッドシープで飯を食ってきた。
クララは時に羊の背に乗り崖を下るような生き方を普通だと思い込んで生きてきた十五歳であったのだ。
羊一頭の重さはこれくらいかなー、と走るだけ走って何だか体が逆に軽くなったクララはバーベル上げをしていた。
両側に三十キロずつ重りをセットして上げ下げし、物足りなくてそのままスクワットをして「(羊よりは全然軽いけど)これだ!」と納得して黙々とバーベルスクワットを続け、近くで見ていた探索者たちから「あの子、若いのに鍛え過ぎじゃない?」という視線を貰ってもまだスクワットをしていた。
ジムの壁にかかってた時計を見て、クララ「今日はこれくらいにしよう」とバーベルを置いて付いてしまった汗をタオルで拭いた。現状回復は大事だとミチルに教わっていたのだ。マナーともいう。ストレッチも忘れずに。
更衣室の鍵付きロッカーから着替えを持ってシャワー室へ行く。汗を流して備え付けのシャンプーも使ってみたが、寮で使っているシャンプーの方が質が良い気がした。服を着替えて備え付けのドライヤーで髪を乾かしてロッカーに戻り、荷物を持って帰ることにする。
受付でリストバンドはどうしたらいいか聞いてみる。
「まだ夜九時まで時間がありますが、もう今日はジムの利用はやめておきますか?」
「はい!」
「では、こちらで回収させていただきますね。本日はお疲れ様でした」
「ありがとうございました!」
リストバンドを受付に返して寮に帰る。帰り道はパンダが一緒だった。
「日がくれたのに女の子をひとりで歩かせるなんてパンダの名折れなのよ」
とのことだ。




