19
ソフィアがクララとアンジェリカを優しく見守っているとドアノッカーを叩く音がした。
ドアを開けるとヴァルキリヤが封筒を三つ持って「入っていい?」と聞いてくる。家主の息子とは言え、客人を通した後の客間であるので当然のことであるが。
どうぞ、とソフィアが彼を通すと、真っ先にアンジェリカの元に向かい「大丈夫?」と聞く。
「もしまだ辛かったら泊まっていっていいんだよ」
「ありがとうございます。お陰で大分調子も戻りましたから今日は帰れます」
「そっか、ソフィアたちを送るヒッポグリフ車が車止めに来てたから、一時間待ってもらうように言っておいたよ」
その言葉にソフィアが「まあ」と顔を暗くした後に表情を改めて「ありがとうございます」と礼を言った。
きっと、ヴァルキリヤの事なので一時間分のヒッポグリフ車の料金を払っているのだろう。彼は旧貴族ではないが、上流階級らしい金の使い方をする男だ。アンジェリカもなんとなく気付いていたが、どうにもならないことなのでヴァルキリヤに任せてしまうことにした。
「で、この封筒は今日のお礼です。どうぞどうぞ」
アンジェリカにはローテーブルに、クララとソフィアには手渡しした封筒をクララはなんだろう、と覗くと一〇〇〇パル入っていた。
「え!?なんでお金貰えるんですか!?」
「だって今日はみんな日雇いバイトとして来てもらったんだよ?鱗泥棒が出ないように友達伝いかパンダの紹介で信用できる人を集めたけど」
「そうなんですか!?」
「あはは、クララは何も知らずに竜見物感覚で来たのかな?」
竜見物どころか何も知らずに来た。クララにとって一〇〇〇パルは高額である。竜の鱗を剥がして、拾っただけで貰ってよい金額ではない。
「だってお昼ご飯いただきました!」
「そりゃあ、来てくれたんだからお昼ご飯くらい出すよ、なんなら今からアフタヌーンティーもする?」
「それは大変魅力的ですが、遠慮します!今ジュース飲んでしまいました!」
あわあわとするクララにソフィアは落ち着くように声をかける。
「いただいておきなさい、クララ。竜は嫌いな人を近くに置きたがらない存在です。鱗剥がしに参加できる人というのも見えない資格があるのですから」
精霊士のソフィアにはクララが精霊に好かれているのは見えている。精霊に好かれる者は大抵竜にも好かれるので今回は連れてきた。
まだヴァルキリヤと封筒へ視線が往復するクララはアンジェリカを見た。こんな時はアンジェリカに聞けばいい。
「私は……今日は午後は迷惑をかけてしまったわ。でも、時間給じゃなくて、『参加したら一〇〇〇パル』って約束だし、ユグ家に煩わしいことをお願いする訳にもいかないから、いただくわ」
アンジェリカは「受け取らないとヴァルキリヤに迷惑になるぞ」と含ませてクララに言えば、クララもなんとなく解ったのかじっと封筒を見る。
「欲しいか欲しくないかで言えば?」
「欲しいです!」
「じゃあ受け取って!」
ばちん!と化粧をしている目元でウインクをされてしまった。この部屋の中で一番化粧が濃いのはヴァルキリヤである。




