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「はい、それでは午後の『鱗剥がし』もよろしくお願いしまーす!」
ヴァルキリヤの大声が響くユグ家の庭、腹八分目のアンジェリカとソフィア、満腹で元気いっぱいのクララは午前と同じく宝石竜ダイアの体から石を剥がす作業を続けていた。
取れた宝石同士をぶつけても黒い表面は特に傷付かず、そもそも黒い部分は何の宝石か確認する時に全部削ってしまうと妖精パンダから聞いてからは扱いが雑に、そして作業は素早くなっていく。
宝石竜の背に乗り、鱗を剥がしている面々は大きな竜の背に登ったり、宝石を持って降りたりと大変そうだが、クララとアンジェリカは地面に足をつけて手の届く範囲で鱗剥がしをしていた。
しばらくそうして手を動かし、たまにお喋りをし、手を動かし、と繰り返していると空が暗くなる。クララたちが空を仰ぐと青い竜が低く飛んでいた。
プァァァァ!とラッパのような音が響く。
「うちの青竜が着陸するよ!全員作業止め!ダイアの影に入ってしゃがんで!」
ヴァルキリヤの大声での指示に宝石竜の背からわらわらと人が降りてくる。クララとアンジェリカは宝石竜の腹の横に居たのでその場でしゃがむ。ここは風が来ない。
ソフィアはどうしただろうかと首だけ上に向けると、黒いグラスを目にかけた男に手を貸されて宝石竜の背から降りていた。
少しずつ降りてくる青い竜を観察していると、宝石竜よりもスマートで鋭角な印象を持った。
クララは自分よりも宝石竜の側にパンダを詰めて飛んでいかないようにする。
「青竜カルラよ。きままで猫みたいに気位がたかくて愛情ぶかい竜なのよ」
「アンジェリカさんが前に鱗剥がしした竜ですか?」
アンジェリカもパンダを抱えながら頷く。
「そうよ、外れる鱗とそうじゃない鱗の違いが判らなくて大変だったわ……あとから聞いたら青竜の鱗は硬いけど軽いから別に鱗剥がししなくてよかったとか……」
「カルラはみんなにかしずかれたいだけだったのよ」
「でもそれに付き合ってあげるのも竜騎手のつとめなのよ」
「のよのよ」
随分な性格の竜のようだ。
「ダイアは無口でおだやかさんよ」
「カルラも性格がわるいわけじゃないのよ」
「好き嫌いがはげしいのよね」
なるほど、猫のようだ。クララがパンダから話を聞いている内にいよいよ青竜が着陸態勢に入った。凄まじい風圧と地面が割れるのではないかと思う地響き。クララが宝石竜に乗って着陸する時はこんなではなかった。振動が収まってからパンダを放してやると「ありがとうなのよ!」と青竜の元へ駆けて行った。
「竜が降りる度にこんな感じなんですか?アンジェリカさん、待合所で待ってる時大変じゃなかったです?」
「竜の離着陸場には大体結界が張ってあるのよ」
「そうなんですね!」
微動だにしなかった宝石竜の側から立ち上がると、ヴァルキリヤが誰かを呼んでいる。
「ミーシャ!ママに挨拶行くぞ!」
するとソフィアに手を貸していた黒いグラスの男がヴァルキリヤと青竜の方へ走って行った。
アンジェリカの腕の中にまだいたパンダが喋る。
「ママってカルラのことよ。ヴァルキリヤにとってカルラはママなのよ」
「どういうこと?」
「これ以上はひとさまのお宅のことなのでひみつなのよ」
まあ、人様のお宅の内情なら仕方ないな、とクララは納得した。それよりも宝石竜から少し離れた場所に敷いていた青いシートの上……集積所の宝石がバラバラになっていることが気になる。
「アンジェリカさん、あれは……」
「集めるんじゃないの……みんなで……」
「パンダも手伝うのよ。がんばるのよ」
パンダの励ましにクララとアンジェリカの周囲にいた人々からも溜息が漏れた。




