19歳 三バカトリオ
「ヤツの穴熊は中田名人のものを現代流にしたものだと思う」
「いや田尻穴熊の変形だろ?」
「松尾流穴熊のできそこない」
研究会は荒れていた
伊藤、佐藤、工藤は奨励会員である
全員が23歳で三段
あと一歩で四段なのになかなか壁が越えられないという奨励会アルアルを体現していた
同世代の人間は大学を出て会社で働き始めている
それなのに高卒のまま ~大学にもいかず四段になることをめざしていたためである~ 日々、将棋に明け暮れていた
まあ家の近くのコンビニでアルバイトをして奨励会費や交通費を稼いでいるのだからギリセーフかもしれない
・・・まっとうな仕事をしている人間からしたら三バカトリオとしか思えないというのは言わないお約束である
そんな仲の良い三人は伊藤の自宅に集まって研究会をしていた
先日奨励会に入会した三矢♀に伊藤がぼろ負けしたからである
女に負けたクズ
伊藤の新たな称号である
まあ三矢の奨励会初対局だったのだ
それだけ負けにインパクトがあったという訳である
男性社会である奨励会では言われても当然であった
余談だが今後も負けた奨励会員は増え続け、他人を貶す暇がないどころか、いつ負けてクズ呼ばわりされるのか戦々恐々とするのは別の話である
話を戻す
伊藤が負けたため、その対局の棋譜 ~棋士(見習い)は一度見た対局は完璧に再現できる~ を元に対三矢♀の研究会を開いた
先手の三矢の戦法は居飛車穴熊
対する伊藤は美濃囲い
ここまでだと勝敗の予想は立てることができない
だが三矢は奨励会に入会したばかりの1級
伊藤は三段
そうなると勝負は目に見えていたはずだった
ところがまさかの伊藤の投了
三矢の奨励会初対局初勝利となった
そして伊藤は対局直後から『女に負けたクズ』と陰で言われた
そんな伊藤を慰めるとともにそのうち当たる三矢対策も兼ねて研究会が行われた
伊藤の将棋盤での対局の再現が三矢の穴熊まで来たところで意見が割れた
それが冒頭の場面である
伊藤が中田竜王が、対大田名人と対局した時の穴熊だと主張する
佐藤が田尻穴熊だと言い
工藤が松尾流だと譲らない
奨励会員なんて多かれ少なかれ将棋に一家言持った存在である
ある意味、当然の結末であった
某将棋マンガのように和気あいあいにハッピーエンドなんてことは起こらないのである
実に残念な三バカトリオであった




