26歳 女流棋士誕生記念祭
「え~、この中部地方から新たに女流棋士が誕生したのは誠に喜ばしいことでして、・・・」
壇上ではなにやら偉そうな人がノリノリで演説をしているけど、その隣に居る新人女流棋士の顔は無表情だった
あ~、もう少し愛想良くできないものかな
いや無理か
なにせ無理やり就任させられたからな
女流棋士
事の起こりはボクの妻が強制的に奨励会員を辞めさせられたことだった
妻はこの一局に勝てば四段という所まで来たのだけれどまさかの敗退
それも体調不良による不戦敗
女性初の四段が誕生するか?!
と日本中が注目していたのにまさかの不戦敗
当日の夜のニュースは大騒ぎだった
「体調不良を押してでも対局しろよ」
と強硬論の人もいれば
「無理を言うものではない」
と理解を示す人もいて喧々囂々な内容だった
もっとも当人は
「そろそろ旦那孝行しないと離婚されそうな気がする」
などといってアマチュアに移行する気満々だった
普通なら本人の意向が最優先されただろう
ところが良い意味でも悪い意味でも全国区となった人間を手放す人間はいない
なにせ昨今、将棋の人気は凋落の一途なのだ
昭和の時代ならば平日の昼間でも将棋センターには人が溢れていたのに対して、令和になるとガラガラ
もうかつての栄光は陰も形もなかった
そんな所に実力も話題も十分な生贄、もとい(元)奨励会員がいればどうなるか
師匠から奨励会の世話役、果てはテレビで見たことがある将棋連盟の重鎮までが説得のために自宅に押しかけてきた
特に連盟の理事の説得は凄かった
腐っても棋士
いや腐ってなくてA級棋士なんだが
26歳の小娘の説得を詰将棋よろしく攻めまくった
棋士というのは誕生した瞬間から社会人として扱われる
たとえ中学生だとしても、である
特に恐ろしいのが棋士として誕生した瞬間からTVや雑誌の取材があることである
お笑い芸並み、いや滑ることは許されないのでそれ以上の対応が求められる
そしてさらに恐ろしいことにそれをノーミスでクリアするのだ
そんな波乱万丈な人生を送っていれば26歳の小娘なぞ赤子の手を捻るようなものだった
「棋士にはなれなくても女流棋士にはなれますよ
いつかは公式戦で対局できるかもしれませんね
とても楽しみです」
とニコニコと笑いながら説得?していましたね
あれはどこをどうやっても即詰みだった
いやどうやったら回避できるのかすら判らなかった
とまあそんなことがあったため妻は不機嫌な顔をしている訳だ
・・・これが御愁傷様ってやつなのか?




