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夜散歩

作者: 三毛狐

☆お題

六月の初旬、夜気は妙に暖かく肌に纏わり付く!

空には星が瞬いていた! が、辺りは仄暗い! 道にはポツポツと瘦せこけた街灯が立ち、ぼんやりとした光を放っている!

その中を二人は歩く! 横手の水田ではカエルが鳴いていた! 会話に支障をきたす程に!

一人が更に細い道へと誘う! 二人は肩を寄せ合うようにして進む! 前方に小さな橋が見えてきた!

エメラルドグリーンの儚げな光がちらほらと目に付く! 二人は橋の上で足を止めた! 下の小川に無数の光が漂う!

その情景を見ながら話は展開する! 誰がどのような目的で、その場所にきたのか! 今の季節に絡んだ人間模様を大いに期待する!

 六月の初旬、夜気は妙に暖かく肌に纏わり付く。

 暑い帰ろう。エアコンが既に恋しい。


 見上げると空には星が瞬いていた。

 この辺りは人家も疎らで、どこに居たんだよ、と言いたくなる眩さが広がっている。


 道にはポツポツと痩せこけた街灯が立ち、ぼんやりとした光を放っていた。

 今の時期は仕方がない。日照時間がもっと延びれば街灯の幹も立派に育つことだろう。


 雪も解けてスクスクと育った街灯。

 今の時期にこれだと、確かに近所のおっちゃんから聞いていた通り豊作だった。


 帰りに若いのを一本持って帰って、刺身で食べるのもありかもしれない。


 次第にカエルの声が大きくなってくる。

 道の横には水を張られた田棚が、街灯と星明りを微かに照り返している。


 良い夜だった。

 特別な夜といっても差し支えないかもしれない

 笑顔で隣を歩く女の子へと話しかけた。


 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケ「そろそろ帰っておでん汁で薄切り街灯のシャブシャブとかどうだろう?」ロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケ「え? 何?」ケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケ「なんだって!?」ケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ

 ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ


 ケロケロが激しいよ!

 自己主張が強い。


 景色の良さと向き合うだけじゃ、現実から逃避するのはやはり難しいようだ。

 隣を歩く女の子に話し掛けるも声が届いていない。


 届いたかもしれないが、肩の辺りにぶつかって確実に落ちている。

 もう帰ろう。エアコンが待ちくたびれている。

 

 しかし彼女はこの先にどうしても行きたいらしく、細い道へと入ってしまう。

 どうしてそっちにいくかな。仕方がないので、着いていく。

 振り返って何か言っているが、何を話しているのかは判らない。

 ただ口元が動いているから、まだしゃべっている。

 彼女もケロケロ言っているのかもしれない。


 するとただでさえ狭い道なのに、戻ってきて隣に並ぶと腕をギュッと組んで来た。


 「もうすぐだから! お願い! もーちょっと我慢して!」


 ハッとなった。そうか、骨伝導だ!

 彼女の意図を察して笑顔になる。

 これなら言葉が通じる!


 「大丈夫、大丈夫。えらいぞー」


 頭を撫でてやると少し困った顔で、でも嬉しそうに笑ってくれた。

 彼女のこのふわふわな笑顔が好きだった。 

 いま顔の真ん中にナイフを突き刺しても、その風圧で揺れるだけで何事もなく笑顔を返してくれるだろう。

 それはとても大きな安心感を与えてくれる。 


 「獲物はもうすぐだから! ね!」


 そうか、獲物がいるのか。

 詳しく訊かないで着いてきたけれど、それは食べられる獲物だろうか。

 期待を胸に歩いていく。


 やがて一本の橋に辿り着いた。


 すぐに彼女の言う獲物が何なのか判る。


 「エメラルドが飛んでいる」 


 川面を儚げにユラユラと薄緑に光るモノが無数に舞っている。

 儚げで、その本体を隠すことのない小さな灯が、正体を詳らかに。


 小さなエメラルドの原石が隙間から光を放って飛んでいた。

 羽はなく、ただ座標を移動するような動き。


 隣の彼女が腕を離して橋から飛び降りた。

 片手でひょいと掴んでガリガリと食べる。


 エメラルドの原石は彼女の口の中、良い音で咀嚼された。


 食欲の権化と化した彼女が、チラッとこっちを見てくる。


 カエルの声は相変わらずけたたましい。

 だからお腹の音は聞かれなかったはずだった。

 

 続くことにして、急いで橋から飛び降りる。


 二人揃って、水面より少し上に着地し、うろうろとエメラルドの原石の踊り食いを続ける。

 足の裏、10cmほど下で緩やかな水が流れていた。


 何味か?

 訊かれても困る。

 エメラルド味だった。


 街灯で季節の味覚を堪能するのはまた今度にしよう。

 エメラルドを食べる機会も最近はめっきり減ったのだ。


 エメラルドの原石は仲間が減っていく事には気が付いているようで、動きに困惑が混ざる。

 そこをひょいぱくし続けた。


 原石は周囲の生命反応を逐一チェックしているようだったが、最後まで何も発見できなかっただろう。


 全て食べ終えると、二人で橋の上へ戻る。

 良い夜だった。


 遠くには海が広がっている。

 夜中なのに明るくて大きな船が沖にみえた。

 あれが噂のマライヤ海賊団に違いない。


 水平線の彼方へ消えていく。


 満腹になったし、気分的にここで朝日を観たくなった。

 彼女がまた腕にしがみ付いて来る。


 「カエルも食べよう」


 そのワクワクした笑顔に、食べ過ぎは良くないよと注意する。

 そして近くに生えていた鎧草を無造作に引き千切って、まあるい花弁を顔に押し付けた。

 100歩譲ってサラダなら良いだろう。


 わぷっ、と一瞬だけ驚いたようだったが、彼女はそのままモシャモシャと食べ始める。味を占めたのか、すぐに辺りの草も自分から食べ始めた。まるで何かの家畜だった。

  

 適当にその辺の草むらに腰を下ろし、夜の海を見渡す。

 微かな潮風が鼻孔をくすぐる。


 そして鼓膜は楽器か何かのようにずっと振動を続けていた。

 聞かないふりをしていても、カエルの声は最初から最後まで何か危険な事でもあるかのようなケタタマシサだった。


 変な生物だなあ、と思った。


 end

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