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【揺花草子。】(日刊版:2021年)  作者: 篠木雪平
2021年03月
70/364

【揺花草子。】[#3331] Seize The Day。

Bさん「阿部さん。今日は3月11日。」

Aさん「うん、そうだね。」

Cさん「ちょうど10年目ね。」

Aさん「そうなりますね。

    正直もう10年になるのかって言う感じの方が強いですかね。」

Bさん「うん、それは、そうかも知れない。

    何しろぼくは・・・もちろんぼくに限らずあの出来事を体験した

    多くの人々がそうだと思うけれども、

    あの頃の出来事を10年経った今でもまるで昨日の事のように

    鮮明に思い起こせるしね。」

Aさん「そうだね。」

Cさん「3月も中旬に差し掛かる時期と言えば

    もうほのかに春の気配が漂い始める時期よね。

    あの時もあの時期はそこそこ寒さも緩んで来ていた時期だったけれども、

    14時46分のあの出来事の後に急に天候が悪化して、

    夕方に差し掛かるにつれて季節外れの大粒の雪が降り始めたわ。」

Aさん「そうでした・・・。」

Bさん「そしてそのまま日が暮れて、暗闇の中で不安に襲われながらの

    就寝を余儀なくされた。

    それから数日は・・・なんと言うか色々必死だったよね。」

Aさん「確かにね。

    当然だけれども、これまでに体験した事のないような出来事を

    たくさん経験した。

    もちろんこの先二度と経験しなくて良いやって事の方が多かったけども。」

Bさん「それはそう。

    それでもなお、まあある意味では貴重な経験ではあった。

    前にもお話したと思うけれども、この経験があれば、

    まあ起こらないに越した事はないけれども、また同じような事が起こった時に

    いろんな点で前回よりはうまく立ち回れるんじゃないかと思うんだ。

    ぼくら個人個人だけじゃなくて、もっとおっきなスコープでね。」

Aさん「それは、そうあって欲しいね。」

Cさん「少し前にも大きな地震があったしね。

    すわあの日の再来かなんて肝が冷える思いもあったけれども、

    いくつかの場面では10年前の経験が役立ったとも言えるんじゃないかしら。」

Aさん「ええ。」

Bさん「ただワンミスを恐れるあまり不要なリスク対策を強いる社会的な圧力が

    薄く充満している空気があるのは良くない傾向だとは思うかな。

    緊急時に平時と同じ完全な状況を求めたり、

    初めての事に完全なノーミスを求めるのは酷だし非現実的だよ。

    緊急時だし初めての事なんだもん。

    この点で過剰な要求がある場面があると思う。」

Aさん「うーん・・・漠然とした物言いだけれども、まあ、

    言わんとしている事は解るかな。」

Cさん「一般論だけれども、リスク管理には大きく4種類の対応の仕方があるわ。

    リスク低減、リスク回避、リスク移転、そしてリスク保有。

    個々の詳しい内容は専門の解説に任せるけれどもね。

    ゼロリスクに拘泥し完璧を求め現実度外視の理想主義に陥って

    肝心のリスク対策が一向に進まないなんて言うのは

    本末転倒も甚だしいもの。」

Aさん「それは・・・そうですね。

    そう言う求める側の気持ちも解らないではないですけども。」

Bさん「まあね。

    理詰めで片付けられない部分も人間の本質ではあるだろうから。

    けど、何にせよ、

    怒り出す前に、なにか口に出す前に、勢いで動き出す前に。

    一呼吸置いて意識的に感情を落ち着ける余裕と言うか心持ちは

    みんな持っておいて欲しいかなとは思う。

    そう言うどうと言うほどのものでもない冷静さがあればきっと、

    もし仮にもう一度あの時と同じ事が起こっても、

    ぼくらはきっともう少し賢く上手くやれるはずだよ。」

Aさん「それは、そうだねえ。」

Bさん「あの時の悲しみや辛さを二度と受けないように。

    そんな小さな願いを心に宿しているだけで、

    自分の両手を拡げた狭い範囲ぐらいなら救えるかも知れないんだ。

    空を見上げて、あるいは目を閉じて、1,2回軽く深呼吸する。

    そんな10秒かそこらの事で良いはずなんだよね。」

Aさん「うん。」

Bさん「そして、今日この10年目と言う日に、

    あの日を思い、静かに目を閉じる。」

Aさん「うん。」

Bさん「その後は、今日から始まる次の10年を思い浮かべたい。」

Aさん「──うん、そうだね。」


 そしてゆっくりと目を開ける。

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