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8.そう簡単に飼われると思うなよ


『……』


 老婆の家の縁側で、今まさにチビは震えていた。


「どうしたのこの子」

『己の欲と戦ってるんだ』


 信用出来ない者から与えられる餌を前に屈しないようひたすら我慢する。

 自分が子猫だった頃もそうだった。懐かしいし、そうして我慢するチビが可愛く思える。

 野良は生きるために信頼出来るところからしか食べ物を食べない。

 だが人間のモノを簡単に口にしないというのは父猫(クロ)からの教育だろう。

 仕方あるまい。実際にクロにそう教育したのは私だし、毒の区別ができるまでは信頼できる奴を、このチビの場合はクロが口にして大丈夫だと言ったものしか食べないようにしていたようだ。


『おいチビ。私のをやるからこれを食え』

「いいの?自分のをあげて」

『私がチビの分を食べる。他のヤツが食べて問題ないならそれでいいだろ』

「なるほど」


 もう既に何口か食べていた私の分の皿をチビに渡せば恐る恐るではあるが口にした。

 味をしめたのかチビははぐはぐと食べれば子猫でありながらあっという間にぺろりと食べきった。相当お腹が減っていたようだ。


『チビちゃんその後どうするわけ?お父さん(クロ)も捕まったんだよね』

『そうだな。きっと虚勢されたらどこかの人間に飼われるんだろう』

『アンタ猫の癖になんでその辺の事情をよく知ってるのよ』


 小娘がテレパシーで問いかけてくる。目の前にいるのは生まれて三ヶ月程度の子猫。いくら本人に野良で生きるという意思があったとしても、小娘(人間)としては一応放っておけないのだろう。

 テレパシーで聞いてきたのもおそらくこのチビにも分かりやすく伝えるためだ。

 だが小娘との会話を聞いて出たチビの言葉は私と小娘を少しだけ呆れさせるような言葉だった。


『ボクおねえちゃんの家に居たい』



―――



「拾ったんだって?」

「あはは、懐かれたっていうかー……」

『おい小娘!なんで私まで病院に行く必要があるんだ!!』

『ねえおばあちゃん、この人間何しようとしてるの!?』

「懐いたにしては大分気が立ってるみたいだけど」


 私らは突然かごに押し込められたかと思えば、自分達は動物病院に連れていかれた。

 猫を世話をするためにある人間の中でルールや規律があるのは分かる。人間も自分の子供が病気ではないかを確認するために病院へ行くことも知っている。だから小娘がチビの世話をするから病院に連れて行くのも分かる。

 だが一生野良で生きると決めた私まで連れて行く必要があっただろうか。と思いながら小娘の顔を睨みつけると、小娘はにんまりと笑みを浮かべる。


『私だってアンタを飼うこと諦めてないんだよ』

『小娘が生意気ほざくでないわ!!』


 しばらくして私とチビの診察が終わり、私とチビはげんなりした顔で小娘の家に着いた。


『なんで私まで……』

『チビちゃんもおばあちゃんと一緒に居たいもんねー』

『うん』


 しかし医者とはいえ人間に自分の身体をまじまじと見られるのはいつまで経っても気味が悪い。

 昔私が人間にされたことは子供を産ませないようにすること。今となってはもう過ぎたことだし、オスが交尾目的で私に寄って来なくなったのだけは良かったと思っている。

 そんなこんな考えていると、小娘は着替えてはまた外に出る支度をし始めていた。


「じゃあ、私バイトあるから行ってくるね」

『チビにも言ってやれ』

「あ、そっか」


 私の言葉を真に受け、小娘はチビに仕事に行く胸をテレパシーで話すと、手を振っては家を出て行った。

 小娘は肉親である老婆がいなくなれば一人で生きていくことになる。ならばたしかに食いはぐれないように金銭を稼ぐ必要があるのだろう。


『さてと』

『おばあちゃんどうしたの?』

『もう小娘の気は済んだだろ。私はいつも通り好き勝手にするさ』


 全く、人間のままごとは面倒なものだ。

 縁側に面している襖を前足で開ければ、自分の体がすり抜けられるくらいの隙間が出来たのでそのまま自分は庭へ出る。簡単に閉じ込められると思うなよ。


『もう行っちゃうの?』

『寂しがるな。野良ならよくあることだろ』


 それに私は小娘に飼われるつもりは毛頭ないが、飯はたかりに来る予定だ。

 それが分かったのか、チビは笑顔で見送ってくれたのだった。



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