墓場に現る、脱獄者と悪魔 14.5話 前半
1人の男が墓場にいた、その墓には天野 圭之介の名前が刻まれている、契約の影響でさまざまな過去が消滅した
その影響で圭之介は正体不明の老人として片付けられ、その死体は無縁塚にて伴われた。
スーツを着こなすサラリーマンは腕につけた時計をチラチラ見ながら、その墓に話しかける。
「最近…娘が話を聞いてくれなくてね、反抗期ってやつかな、外に出ないように、と言っているのに外を出たり
危険なことに首を突っ込むな、と言っているのに突っ込んだり
反抗期は軒並みこうなのかな、私の時もそうな感じだったか」
「幸せそうだな…満…」
サラリーマンの後ろにさっきまで居なかった男が立っていた、足と腕は義足、至る所が傷だらけの男。
サラリーマンは後ろを振り向かずに、そのまま話す。
「はて、誰のことかな、今の私は愛菜 晴人だよ…朝倉」
男の後ろに居たのは犯罪者の朝倉 真葉だった。
「しかし…変だな君は捕まったんじゃないのか、くだらないテロをして」
「おいおいくだらないはないだろ、それにしても変わったな、お前は悪魔になった後、社長になったんじゃなかったのか」
「少しトラブルが起きてね、どこからか私が悪魔だと言う情報を嗅ぎつけた連中がいてね
そいつらは全員殺したが、念のために立場を変わってもらったんだ、同意の元だよ誤解しないでくれ」
「それで今はサラリーマンか」
「ああ、社長と言うのも大変でね、私が望む日常と言うものが味わえない、もっとも非日常の日々を送っている君にはわからないだろうがね」
「非日常も時間が経てば日常に変わる、俺は普通というのが嫌いだからな」
「だから警察をやめたのか」
「ここでは語れないことがいろいろあってね」
「いろいろは弟が殺されたことか」
男がそう言った瞬間に朝倉は拳を巨大化かさせ、男に殴りかかる、だが男はそんな朝倉の拳を軽々と止め振り払う。
「なんのつもりだ」
「弟の話が出たんでな」
「そんな事で殴るなんて気が短いな、タンパク質が足りてないんじゃないか
そう言えばタンパク質で思い出したが、すぐにキレることと、タンパク質は全く関係ないそうだ、当時のマスコミが誤解していたらしい」
「いらない知識が増えたな」
「それより…なぜ君がここにいる、君は刑務所で反省していると思っていたが」
「反省するわけがないだろ、していたらテロなんてやってない」
「だろうな、しかしよく抜け出したな、私の記憶が正しければメナスに収監されたんだろ」
「抜け出してねぇよ、まず捕まってすらいない、逮捕されたのは俺の身代わりだ」
「大人しく逮捕されればいいものを、そうすれば皆が幸せになれるぞ」
「悪魔が何を言う、俺なんかのテロリストよりよっぽど恐ろしい存在のくせに」
「私は何もしてないさ、お前とは違ってな」
「いつ何をするのかわかったもんじゃない、あの日みたいにな、圭之介さんの誕生日のように」
「もう昔の話だ時効どころか事件にすらなってない」
「そうだなお前が殺した相手だ」
朝倉はそう言いながら銃を握りしめ男を後頭部に銃口を押し付け、そのまま引き金を引く。
バン!!
静かな墓には似合わない銃声が響き渡り、男は頭から血を流す、だが苦しむような声を上げず、ゆっくりと
「契約、今のこれをなかった事にしろ」
こう言うと男の傷が何もなかったように、元に戻った。
「…復讐かこの私に、全く…墓場で銃なんて、まるでゾンビ映画じゃないか」
「そうな物に興味はない」
「そうか、そう言えば最近娘がゾンビ映画にハマり始めてね、だが私はその手のものが苦手でな、日常が終われるような様は見ててイラつく
娘にそのゾンビ物の話をされるが、それでも好きになれなくてね、だから見るのをやめさそうと思ったんだが
流石に大学生だから教育に悪い、とか言う理由でやめさせれなくてね」
「時間が経てば飽きて別の物にうつる」
「そうだと言いがな、そう言えばなぜ君がここに、わざわざ脱獄してまで来る意味がないだろうに」
「ただの墓参りさ」
「羨ましいな暇そうで」
「お前もそうだろ」
朝倉はそう言いながら墓の前に立ち、酒を置くと風のように姿を消した。
置かれた酒は鬼殺し、今はなき圭之介が好き好んで飲んでいた酒、それを見た男はため息をこぼしながら墓に同じ酒を置き立ち上がった。
「さて、もう行くとするか」
男はそう呟き、その墓から離れる。
「おい…待てよ」
無縁塚の出入り口から出ようとしたと所で声をかけられた、不良みたいな二人組だ、男はそんな二人組を無視してその場を去ろうとしたが
不良はそんな男の肩を掴み止める。
「なんのつもりかな」
「…テメェ朝倉と一緒にいただろ」
「そうだぜ、何か知ってるんだろ」
「さぁ、なんのことか…」
男はとぼけながら掴む手を振り解くが、そんな男に不良はスマホを取り出し、朝倉と一緒にいるところの映像を見せた。
「じゃあこの映像はなんなんだ」
「ククク、警察にお届けしてもいいんだぜ、捕まっているはずの朝倉と会話する男…
いや、この際警察じゃなくて、マスコミの方が良さそうだなハハハハ」
「…何が目的だ」
「わかってんだろ」
そう言いながら不良は右手で金を表すハンドシグナルをした。
「…君…知っているかね、そのハンドシグナルは海外だと、無価値、ゼロと言う意味になるそうだ
他にも肛門や女性器などを意味し、トルコでは『俺がゲイだから肩の穴OK』と言う意味になるそうだ
今度からは気をつけた方がいい、気づいたらトイレなんて事になりかねないぞ」
「そんなことが聞きてんじゃねぇよ!!とっとと出せって言うことがわからんのか」
不良は勢いよく胸倉を掴み、頭がぶつかりそうな距離まで近づけ、蛇のように睨みつける
「君達… 胸倉を掴むと言う行為は、暴行罪になる事を知らないのか、ま、便所のクソにたかるハエみたいな君達には理解できないだろうがね」
男は少し小馬鹿にする様に言うと不良は胸倉を掴んだ状態で思いっきり殴った。
「クソにたかるハエ?俺達がそれなら、お前はクソって事か、ただ流されるだけのクソ、じゃねえかハハハハ」
「確かに、そうすねww」
不良達は男を馬鹿にする様に大袈裟に笑った、男はそんな不良に少し苛立ち、不良の腹を思いっきり殴る。
殴られた不良は腹を両手で押さえ込む、男は掴まれてシワができたスーツを手で払うなりして、シワを取ろうとした。
「あ、兄貴!!」
「テメェ」
「まったく…シワができてしまったよ、1時間後に大事な打ち合わせがあると言うのに、最近の私はついてないな
偶然打ち合わせ先がこの墓場の近くだったから、寄っただけなのに、脱獄者に絡まれるは、カスに絡まれるわ、服にシワができるわ
本当についてない」
「何言ってんだ」
「君達は気にしないだろうが、服にシワがあると仕事にならないんだ」
「テメェ仕事の事を気にしている場合か」
「そうだな、まだ打ち合わせまで1時間もある、打ち合わせの準備に10分使い、移動に20分使ったとしても30分暇な時間がある
そして」
男表情1つ変えずに着ていた服を抜き、地面につかないように鞄の上に置いた。
「君達の処理に5分かけたとして25分もあるからな、その25分をどうしようか」
男はネクタイを外し、軽く拳を握った。




