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貴方へ  作者: sunrise
1/1

~それでもあなたが好きです~

                 1

「だから言ったじゃないですか」土ぼこりの中、付いた砂を払い竹刀と学生服を拾うと「すみません、失礼します。」地面には何人かの人影が、時計を見ながら一言「やべっ」

正門へ急ぐと「守君、大丈夫?待って、肩が破れてる。貸して」「いやん、なにすんの」「馬鹿言ってないで、はい」俺から服をむしり取ると「あーあ、こんなに破いて」持っていたソーイングセット、素早く糸を通して「はい、出来た。急いで」「サンキュ、お礼はチューでいい?」「バカ、早く急いで」思わずダッシュ正門に着くと静かに車が止まり、「おかえりなさいませ。」「ただいま、いつもすみません。」車のドアを閉めるとプンと汗と土の匂いがしたが、運転手の宮間は滑るように車を走らせた。

少し走ると、窓越しに何人かの学生服の男女が見え、その中に幼馴染の美生の姿もあった。「止まりますか?」少し間を置いたが「いや、行ってください。」車は静かにスピードを上げた。

遅れましたが、僕の名前は篠田守。中学一年生。四月に私立風花中学に入って間がないのに早速上級生からの洗礼を受けたところ、殴られてもよかったんだけど、竹刀を持つと、つい手が動いて、あー明日、どうしようなどと思っているうち車は大きな門の前に、「おかえりなさいませ。」「ただいま、母さんは部屋ですか?」「はい、部屋でお休みになっております。」秘書の田島さんと廊下を進み障子の前で「ただいま、帰りました。」静かに障子を開けると、「おかえりなさい。もうそんな時間?」「起きてたんですか、お加減はいかがですか?」「ありがとう、今日は良いみたい。そろそろ木蓮が咲くころね。」

開けた障子から風が入り「いい風、気持ちいい。」母の笑顔があった。

起き上がった細い肩にカーディガンを羽織らせ、「寒くないですか?」「ありがとう、大丈夫よ。」と白く細い指で裾をつまみながら答えた。「今日はなにかあったの?」「特には、部活動紹介があって、やはり剣道部にしようかなと思ってます。」言い終えないぐらいに障子の向こうから「ただいま、戻りました。」

「えっ?」「加奈子、どうしたの?」なんと五年ほど帰らなかった姉の加奈子が帰ってきた。「話してたのよ、加奈ちゃんは元気かしらってどうしてたの?」「心配させてごめんなさい。帰ってきました。守もげんきそうね、」「うん、、びっくりした。いつも突然だね。」「そうね、今回は早かったかな。」何かあったようだ。いつもと違う様子の姉に、母も気づいたようだが、「おなかすいてない?何か作ろうか?」「僕が作る。」立とうとすると、腕をつかみ、「いいの、駅で食べたし。あーやっぱりうちはいいわ、生き返る。」そう言うと、寝転がり、深呼吸。「いい匂い。」と寝返りをうつと、肩震わせて泣いていた。

母も僕も何も言わず、ただ姉を見つめた。

                     2

「おーい」小さな声で窓に向かって呼んでみた。「美生、おーい。」「おーい、美生。」レースのカーテンが揺れて窓が開き、「守くん、今日は大丈夫だった?」「あー大変だったよ。あの後、追いかけられてコテンパンにやられて。」「えっ?」「ってそんなわけねえだろ。」「もう、心配させないでよ。」

美生とは隣同士で幼馴染。窓を開ければ顔が見えるほど近い。「あっいい匂い、木蓮?今年も咲いたのね。」「あー、母さんの木だからね。」若い頃父と母で植えた母の好きな木蓮。忘れずに咲いていい匂いと白い花を咲かせる。「あっそうだ、姉さんが帰ってきた。」「えっ?加奈子姉さん?」「うん。」「いつ?」「さっき、突然過ぎて。」「えっ誰の話?あー美生ちゃん。」「お久しぶりです。お元気でしたか?」「うん、体だけは丈夫みたい。」

「あのさ、ノックぐらい。」「ハイハイ、細かいこと言わない。美生ちゃん、今ね酒盛り中。」「おーい、俺らは未成年。」「何言ってんの、あんたらじゃなくて。」「あっおとうさん。」下には一升瓶を抱えた、美生パパと「おっ少年、仲良くやってるかーい。」完全に出来上がってるうちの親父。「いい酒が入りましたんで。」「あーこれは、熱燗ですかな。」「いや、冷も旨いらしいです。」「ほー、では一杯。」声と共に二人が消えると下から笑い声が響いてきた。「私も」「あんまり飲ませんなよ。」

「ごめんね、父さんが誘ったのね。」「気にしない、気にしない。せいのっと。」「えっ?」勢いをつけて、窓から窓へ「えっ?」「へー、こんな感じ。」「ああのね。おおんなのこの部屋に。」「えっ、誰が?」おー、出た。見事に真っ赤な顔。「だからー。」「あーこれ、買ったの?」手にしたのは新刊の漫画。「あーうん、これ面白いって…先輩に聞いて。」おや?妙な間…「ふーん、なんていう先輩?」「えっあの…名前言ってもきっと知らないよ。」おー耳まで真っ赤。「…まっいいか、貸してこの本。」「えっまだ読んでないし、それに…」「えー、じゃいいよ。」と出ていこうとすると「えっ」「えっ?」「なんで止めないの?」「…止めてほしいの?」ずるっ、まあいいけど「((笑)ごめんね、明日は無理だけど、一週間のうちには返してもらえると思う。返ってきたらすぐ、貸すから待ってて。」ふん、律儀だのう、そのうちって言えばいいのに「わかった。じゃ、そんときには、取りに来る。窓から。」そう言いながら窓のさんに足をかけ、あらよっと、飛び越えた。「(笑)おやすみなさい。」「おやすみ。」カーテン閉めて電気を消したが、閉めていた窓をそっと開けると、窓を閉めて電気を消す影がレースのカーテン越しに見えた。      先輩か誰だろ?、俺の知らない先輩…ベッドに入って、目を閉じてもしばらくは眠れず、頭の中でぐるぐると先輩の文字が浮かんでは消え、『まっいいか』と思ったとたん、眠りに落ちた。

                     3

そうして、春夏秋冬過ぎて、僕らは高校生になり、私立銀山高校に入り、四月、「俺、木島。よろしく。」と席に着くなり声をかけられた。「よろしく、篠田です。」「あっ俺、木島。」どうやら、名前を言うのが彼の中では流行らしい。クラス全員に紹介して回ってる。しばらくすると、「ねえ、シャー芯持ってない?」と声を掛けられ、「はい。」と差し出すと、「サンキュ、俺翔太、助かったよ。」「俺、守。」「あれ?下の名前教えてくれるんだ。」「なんで?」「木島に苗字で答えてたから。あいつとは小学校からのつきあいなんだけど、どうもうまが合わなくて、別に悪い奴じゃないんだけどね。」うん、わかる気がする。

悪い奴じゃないんだけどね。というのもわかる気がする。まあこのクラス、悪くない。気がする。

と思いつつ、目は一点を見つめて、美生、女子数人と話し込んでる。「でさ、何?」「ん?」「誰見てんの?」さっきの翔太が視線を遮る。「あーいい天気。」と視線を窓に移すと、咲き誇る桜が風に揺れ、舞を始める準備をしている。「えっなになに、誰見てんの?白状しろ。」「桜がきれいだねえ。」「えー」白々しい素振りでその場を切り抜けると、「はいホームルーム始めます。」担任の酒井先生が入ってきて、黒板に酒井信と書いて「僕の名前です。一年間、みんなの担任をします。よろしく、それじゃ、みんなの名前を、じゃ、こちらの席から。」エーと言いつつ、女子が一人立ち、みんなに向かって、「前田沙知子です。よろしくお願いいたします。。」「趣味は?」と担任の質問に「食べることが好きです。」と笑いを誘い、「はい、拍手。じゃ次は?えーと、八嶋さん?八嶋美生さん。」「はい。」と小さく返事して席を立ち皆のほうを向いて、「八嶋美生です。趣味は編み物です。よろしくお願いします。」と頭を下げて座ろうとすると「抱負を一言。」えーと言いつつ、「友達百人作りたいです。」と耳まで真っ赤になりながら言って席に着くと「じゃ、一番目は僕で、はい、拍手。じゃ次、木島くん、木島。」「木島です。趣味は音楽を聴くこと。抱負はとうだい目指してます。灯のほうですが…。」一瞬キョトンとしたが「はい拍手。」

と先生の声に拍手してたら、「やっぱり。」と後ろの席で声が、「えっ?」「あいつ、下の名前、言わないんだよ。」「なんで?」「だって、伝助だもん。」「伝助?木島伝助」一斉に笑いが起きたが、「いい名前じゃん。なんかそう言う偉人いなかった?」俺の一言に「ありがとう。」と木島が言った。「そうなんだよ、俺の名前は偉人と一緒。」「だれだよ、聞いたことない。」誰かが茶化すと、「そうだよ、誰だよ。」

「江戸時代の医者?だったような。」嘘だ。が、言い直す気もなく沈黙していると、「はい、じゃ木島伝助くん、拍手。」担任の酒井先生がその場を収める形で切り上げ、「じゃ、一時間目は音楽です。はい教室移動。」がやがやと言いながら席を立ち、みんな、一斉に移動し始めた。        


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